ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●5-5 競わせて安く買う ~分散化のメリット・デメリット~

前回の「集中化」とは、まったく逆の対応となる「分散」。まったく逆の手法ですが、複数のサプライヤを競わせれば、バイヤ企業に有利な価格に代表される購買条件で発注が可能となります。しかし、ただ漫然と複数のサプライヤに見積依頼をおこなえば分散購買によるメリットが得られるかといえば、違います。競争原理を働かせるための環境整備が必要です。

☆バイヤの仕事は分散状態の確立

前回述べた内容とはまったく逆の「分散」ですが、準備段階は、通常の見積依頼と全く変わりありません。バイヤ企業としての要求内容を明文化し、仕様書や図面といった形で、希望する購入条件と一緒に、複数のサプライヤへ見積依頼します。また、集中購買につづく記事ですので、前回学んだように、バイヤ企業内でのアイテムのまとめ、集中化をおこなった上で、サプライヤを分散させる方が効果的です。

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そして重要なポイントです。見積依頼をおこなったサプライヤ各社には、同様に他のサプライヤにも見積依頼をおこなっていると伝えます。サプライヤどうしに競争意識をもたせます。さらに、見積提示内容によって判断し、どこのサプライヤでも発注する可能性が平等にあると明言します。「平等に」がポイントです。見積依頼をおこなった各サプライヤが、同じスタートラインにいると印象づけます。過去の記事でもお伝えしましたが、見積依頼をおこなった後、サプライヤから依頼内容に関する確認依頼があり、サプライヤに回答した場合は、同じ内容を追加情報として、他のサプライヤにも伝えます。このようなフェアーな競合環境の創出が、調達購買部門におけるバイヤの役割です。

「見積仕様書」の内容が複雑で、打ち合わせが必要な場合は、各社同じ条件で内容確認のための打ち合わせを設定します。同じ条件の下での見積依頼とサプライヤが意識すればするほど、競合意識を高める効果が期待できます。ここで、サプライヤが独自に購入要求部門とコンタクトする場合も想定します。このような場合は、必ず授受した情報の内容を調達購買部門にも連絡するように購入要求部門に申し入れます。打ち合わせが設定された場合は、議事録によって打ち合わせ内容を入手する、あるいは打ち合わせに同席して内容を確認し、他のサプライヤとも情報をシェアして、見積依頼内容の差を解消します。

☆複数の見積を評価する際のスタンス

複数のサプライヤからの見積を目の前にして、バイヤとしてどうするか。まず、フェアーな競合環境を維持して、フェアーにサプライヤの見積内容を評価します。評価した結果で、複数のサプライヤの見積内容が拮抗している場合は、分散購買に適していると判断します。ここで、見積依頼をした案件だけでなく、バイヤ企業として見積提出のあった全サプライヤからの購入状況を確認します。見積結果と、購入状況のクロスチェックによって、分散購買による競合環境が、見積依頼時だけでなく、サプライヤを決定して以降も継続するような発注先の選定をおこないます。具体的には次の3つです。

(1)新興勢力への発注 →さらなる分散の加速
アイテムやカテゴリーにおいて、決まったサプライヤがいると仮定します。そんな中で、新しいサプライヤにも見積依頼をおこなった結果、決まったサプライヤと同じもしくは、それ以上の購入条件が提示されている。このような場合は、新しいサプライヤへの発注を検討し、既存サプライヤへ緊張感を喚起します。

(2)発注バランスの破壊 →次なる「集中」への布石
1つの発注カテゴリーにおいて、複数のサプライヤがいる状態、かつ発注アイテムの棲み分けがおこなわれているような場合に、あえて「棲み分け」を崩すようなサプライヤを選定する。「棲み分け」が、バイヤ企業の意図とは関係ないところで構築された場合は、棲み分けを打破し双方のサプライヤへの刺激が狙い

(3)上記(1)、(2)をおこなった結果、で既存サプライヤへの発注
これまで述べたような検討をおこなっている事実を、既存のサプライヤに、包み隠さず説明します。ポイントは、今回選定から漏れる可能性が高いと明言した上で、既存サプライヤから何らかの追加提案があれば、既存サプライヤへの発注を決定する。

今回の記事の冒頭、複数サプライヤへの見積依頼に際し、フェアーな競合環境の維持がバイヤの仕事であるとしました。フェアーな競合を実現しつつ、バイヤとして将来的なサプライヤ構成を意識し、より有利な調達環境の構築を目指す。そのためには、競合の結果、特定のサプライヤにのみ、発注の意志を伝え、よりメリットの大きな条件を引き出すといった取り組みもおこなわなければなりません。

☆発注できなかったサプライヤへの対処

競合状態を維持するとは、発注したサプライヤと同時に、発注できなかったサプライヤへのフォロー方法が重要になります。発注が決まったサプライヤとのコミュニケーションは活発になる一方、発注しなかったサプライヤは、バイヤ企業への営業活動に対するモチベーションを失う事態も想定しなければなりません。将来、再び競合してもらうために、発注しなかったサプライヤもフォローを継続します。発注できなかった段階で、原因は価格なのか、価格以外の条件なのか、具体的な理由を伝え、次の機会も見積依頼をする可能性がある期待を伝えて、次なる競合に備えてもらいます。

集中購買と分散購買は、バイヤがコントロールして、繰り返しおこなえば、メリットが大きくなります。バイヤの意図しない集中受状態、あるいは分散状態でなく、集中と分散をバイヤみずからコントロールできる状態が、最終的な目指すべき調達環境なのです。

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(つづく)

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