バイヤ超基本業務(牧野直哉)

4.購入条件調整

大手企業の調達購買部門では、購入条件の調整、購入条件に関連する交渉をおこなうケースがほとんどありません。これは、自社の取引条件によってサプライヤからの購入を実現させているためです。しかし、この記事の「見積依頼」の部分では、次の内容について、具体的な条件設定をおこなう必要があるとしました。

① 購入仕様(仕様書、図面)
② 購入する量(購入する期間)
③ 希望する納期(リードタイム)
④ 品質条件(保証期間)
⑤ 支払い条件(期日、手段)、特別な要求
⑥ 発注先決定プロセス
⑦ 発注先決定スケジュール
⑧ 見積提出日
⑨ 見積提出に必要な添付物(明細)
⑩ 問い合わせ先

サプライヤと取引基本契約を締結し、上記①~⑩の中で、発注の都度サプライヤとの交渉の必要がない形で、実務を進めるケースもあるでしょう。事実、私が経験した実務でも、都度確認を要するのは、限られた項目でした。しかし、バイヤはすべての条件を決定する可能性もあります。そして、すべての項目について、サプライヤとの調整や交渉を通じて、自社の事業へ貢献するより良い条件設定を目指します。

また、見積依頼の部分で、上記内容を、調達購買部門で決定できるかどうかについて分類しました。

調達購買部門で決定できない項目:①、②、③、④、⑦、⑨
調達購買部門で決定すべき項目:⑤、⑥、⑧、⑩

また、購入機会ごとに設定するかどうかについても、次の通り分類しました。

アイテムごとに異なる項目:①、②、③、⑦、⑧、⑨
サプライヤごとに異なる項目:⑤
共通項目:④、⑥、⑩

調達購買部門で決定すべき内容は、サプライヤへの申し入れ、受け入れ可否の回答、サプライヤとの交渉との局面になっても、担当者あるいは、担当部門として責任をもっているために、対応が容易です。しかし、調達購買部門で決定できないアイテムについての調整や交渉は、少しハードルが上がります。ここで述べた「ハードル」とは、購入に際しての具体的な「制約」要因です。制約要因は3つあります。

(1)上流制約

これは、バイヤ企業の顧客や、購入要求部門から指定される条件を指します。調達購買部門にとって、もっとも厳しい条件調整・交渉を強いられる上流制約は、サプライヤ指定です。サプライヤに関する選択肢を持たない場合、他の条件調整でも、バイヤ企業の優位性の確保が難しくなります。特に、サプライヤもバイヤ企業でなく、さらにその先の顧客からの指定であると認識している場合は、サプライヤからの譲歩を獲得が困難です。

調達購買部門としては、上流部門に対し、こういった制約を設けない購入要求の設定を働きかけます。また、事実上の業界標準で、顧客やバイヤ企業に選択肢がない場合、サプライヤからの提示条件を上流にフィードバックして、調達購買部門とサプライヤ間だけでなく、顧客と3社間での調整をおこないます。

(2)調達購買部門で設定する制約

これは、バイヤ企業内のサプライチェーンでは下流にあたる部門によって設定される条件を指します。典型的な例として、たくさんのサプライヤに同じ納入場所の設定があげられます。この制約は、多くのサプライヤには、顧客へのサービスの一環として、バイヤ企業の提示条件を了承しているケースが多くなります。バイヤ企業側でも、数多くのサプライヤそれぞれに、異なる条件設定をおこなうのは効率的ではないので、あまり問題視されずに、自社の都合を押し通す傾向があります。

(3)サプライヤ制約

これは上記(2)のサプライヤ版です。(2)でも述べましたが、基本的にはサプライヤがバイヤ企業の条件提示に合わせているため、この制約が顕在化するケースは少なくなります。しかし、バイヤ企業の提示条件と、サプライヤの条件が大きく異なる場合は、サプライヤからの実際の納入時に問題がいきなり顕在化します。

調達購買部門では、上記3つの制約条件を、できるだけ少なくする働きかけを、サプライヤだけでなく、バイヤ企業内や、バイヤ企業の営業部門を通じて顧客にもおこないます。ここで、働きかけをおこなうかどうかの基準は、本質的な必要性の確認です。上記(2)の場合は、メーカーの場合、製造部門の発言力が強く、バイヤ企業内の調整も円滑に進まない場合があります。もちろん、一般的な条件であれば、サプライヤとの合意を目指すのが、調達購買部門の責任です。しかし、バイヤ企業にのみ有利で、一方的でサプライヤ側に費用発生をともなう対応を要する場合は、費用対効果の確認をおこないます。その上で、サプライヤとの調整をおこないます。

(つづく)

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