バイヤー現場論(牧野直哉)

4.立ち会い検査にて

立ち会い検査とは、発注した製品がサプライヤを出荷する前に、自社の要求内容が適正な品質とともに確保されているかどうかを確認するためにおこないます。外観品質や寸法を検査したり、機能を確認したり、内容は購入品によって多岐に亘ります。検査時間と内容によって、リードタイムも長くなり、検査実施に必要なコストが発生します。立ち会い検査の実施に際しては、その必要性を、費用対効果を見極めておこないます。立ち会い検査は、実際に購入物をじっくり観察できるチャンスです。購入機会ごとに立ち会い検査をおこなう必要がある場合は毎回同行する必要はありません。しかし、新しく担当になった製品は、一度立ち会い検査を経験しておくと、購入品の理解が深まります。

①検査基準の明確化

検査基準は、購入時に明示しなければなりません。実際の検査内容は、サプライヤが設定している標準の検査内容にするのか、それとも自社の顧客の要求事項をもとに検査内容を決定するのか、いろいろなケースが想定されます。自社に具体的な検査基準がない場合は、サプライヤに検査方案(試験方案)の提出を求めます。サプライヤ側で標準的な品質確認の方法が記載されているので、その内容で良いかどうかを自社で決定します。

自社と顧客との契約条件で検査基準が決められていたり、自社内の技術・設計部門や、品質保証部門から具体的な検査方法の希望があったりする場合は、事前に自社指定の検査方法を、見積依頼へ折り込みます。そういったやり取りを経て、発注時には、内容を確定させます。立ち会い検査は、まずサプライヤ側で良品と確認した上で実施します。

②立会時の注意事項

立ち会い検査は、サプライヤ工場の現場でおこなわれます。会議室とは異なりますので、決められた現場のルールは、事前に説明を受け順守します。一般的には、次の点はどんな工場でも順守します。

(1)工場内では、決められた服装・履物で立ち入る

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製造される製品によって、現場にはさまざまな危険が存在します。自社の作業着を持参する場合でも、訪問先のルールに合致しているかどうかを確認した上で、着用します。

(2)決められた通路を歩く

通路には、ラインによって製造現場と区別されているはずです。その場合、移動では生産現場よりも危険は少ないはずですので、移動に際しては現場から見たラインの外側を歩きます。

(3)通路を横切るときは左右の確認をする

工場によっては、自動搬送機やフォークリフトが走っている場合もあります。作業者の往来も含め、左右の確認は忘れずに実施します。

(4)横断歩道のあるところは、横断歩道を渡る

大きな工場の場合、生産プロセスが複数の建屋に分散されていれば、構内道路を移動する場合もあるでしょう。この場合も、通路を歩くのと同時に、道路横断時は、横断歩道を使用します。これは、他の場所と異なり、様々な通行者に安全確保の意識が高まる場所であり、通行時の安全性が高まるためです。

(5)作業中のフォークリフトに近寄らない

フォークリフトは、一般の自動車に比較して、回転半径が小さく、また重量物を運搬しています。フォークリフトの作業車も安全確保はおこなっていますが、自分の身は自分で守るとの意識を持って、必要のない限りフォークリフトへ近づくのは避けます。

(6)ホイストクレーンなどのつり荷の下に入らない

モノをつり上げるには、玉掛けが必要です。玉掛けは「玉掛け作業者」として玉掛け技能講習及び玉掛け特別教育を修了した者に与えられる国家資格です。実際に現場でおこなわれる場合は、有資格者の下でおこなわれる補助的な業務に限り資格不要となっています。実際に現場で「有資格者ですか?」と確認するのも余り現実的ではありません。したがって、つり荷の下には入らない大原則の実行が、自身の安全確保にもっとも有効です。

(7)機械やコンベアーの上を歩かない

現場には、搬送機やリフトといった動くモノがたくさんあります。現場で動くモノは、基本的にオペレーターが管理しており、工場見学や立ち会い検査で工場内に立ち入る場合は、ほぼ使用する可能性がありません。したがって、こういったモノには近付かない、操作しない、まして歩くのも御法度です。

(8)扉の向こう側には人がいるかもしれないので、扉は急に開けない

これは工場に限らず、オフィスでも該当しますね。自分が怪我をしないためにも「急」のつく動作は慎みます。

(9)工場内、階段は走らない

これは、走る状況を作らない心懸けが重要です。あらかじめ余裕を持った行動を心掛けて、急ぐ場面を作らないようにします。

もし、皆様がサプライヤを訪問して、なんらかの不手際によりけがをしてしまった場合、軽微なけがであっても、サプライヤの現場管理者には大きな負荷が発生します。訪問を受け入れるサプライヤ側でも注意するでしょうが、訪問する側も自分の身は自分で守り、自分、自社とサプライヤの3者の安全確保をおこないましょう。

(2)~(9)は、どんな工場であっても同じです。(1)は、工場で生産するモノによって、また企業の考え方によって差があります。

③契約上の位置付けを理解する

立ち会い検査の実施は、サプライヤには負担となります。自社の顧客との契約に含まれている場合はやむを得ません。しかし、自社の都合で立ち会い検査をおこなう場合は、できるだけ立ち会いしなくて済む方法論を考えます。サプライヤの社内検査の成績表の内容確認で済ませるとか、毎回実施せずに一定納入頻度ごとにおこなうといったサプライヤの負荷軽減策を、サプライヤと一緒に模索します。これは、機能や品質の確認をおこなわないのではなく、実際に立ち合って確認するといった形式を、どのように軽減しつつ、確認の効果を維持するかがポイントです。

また下請代金遅延等防止法(以降、下請法)における「受領」は「親事業者が直接下請事業者のもとに出向いて目的物の検査をする場合(出張検査・立ち会い検査など)は、検査を開始した日が受領した日」と定義されています。下請法対象サプライヤで立ち会い検査をおこなう場合は、立ち会い初日の起算での支払が必要ですので、注意が必要です。

<つづく>

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