調達・購買担当者としてこれだけは知っておくべき契約書の基本~その3(坂口孝則)

調達・購買担当者として、最低限、知らねばならない内容についてお話していきます。これを話そうと思ったのは、某社から契約に関する研修の打診があったからです。とはいえ、研修というほどの大げさなものにする必要はありません。

調達・購買担当者の仕事として、サプライヤと契約書を締結します。ただし、契約書の雛形を利用するがゆえに、その意味をさほど把握していないのが実情でした。違うでしょうか。ただし、私たちは調達・購買担当者であって、法務担当者ではありません。したがって、あまりにマニアックな細かな項目の学習は不要でしょう。ただ、勘所と肝要点のみは把握しておく価値があります。だから、研修会にわざわざ参加しなくとも、契約について「だいたいわかる」必要があるのです。

ということで最終回です。

今回のポイント:対価の支払

サプライヤからモノを調達するとき、最後に(当然ながら)対価を支払う必要があります。ただ、代金の支払いといっても、気をつけておくべき内容があります。対価の支払いについて契約書で書かれるのは、たとえば、次のような内容です。

<クリックすると大きくできます>

【ここでの注意書き】
1.下請代金法では、「目的物の納入日から、60日を超えても対価の支払いができないときは(年14.6%)の遅延利息を支払」えと規定
2.振興基準では「少なくとも(人件費相当分)は現金で支払うよう、現金比率を高める」よう努力せよと規定
3.取引基本契約書には、支払方法を意図的に記載せずに、別途、通知書を提示するケースが多い。これは、(下請代金法)の規定で、(1年を超えない期間内)とされているからである

ここでポイントを説明します。まず1.です。下請法では、下請法対象事業者の保護を第一目的としています。ですから、資金繰りがもっともコア事項として扱われています。少しでも代金を支払い遅延したら、大事(おおごと)だ、とするのが下請法の根本です。したがって、遅延の場合は、上限金利の年利14.6%相当を加算して支払う必要があるのです。もちろんこれは、遅れても良いわけでは決してなく、遅れた場合の罰則として規定されています。おわかりのとおり、年利14.6%ということは、支払いを遅延してしまうと、コスト削減したとしても吹っ飛ぶレベルです。

下請法を守ろうと思えば、「下請事業者と付き合わないことだ」と名言を吐いたひともいます(私の元上司)。しかし、中小企業育成も立派な使命ですから、遅延利息については厳しく心しておきましょう。

さて、意外に知られていないのは、2.のお達しではないでしょうか。サプライヤのコストはさまざまな分類が可能ですが、たとえば、内部コストと外部コストにわけられます。つまり、内部コストは、サプライヤ社内でかかるコスト。外部コストは、サプライヤの外注や外部購入費など、外の企業に支払うコストです。そのうち、下請法としては、やはり下請事業者の内部(社員)を守らねばなりません。たとえば、サプライヤが購入している部品が大手企業からだったとします。極端な話、サプライヤはその大手取引先にお金を支払う時期を待ってもらったとしても、必ず内部の社員には給料を払わねばなりません。

笑い話のようですが、正直にお話します。私(坂口)も、かつて税務関係の広州を受けたときに、講師がこういっていました。「倒産しようとしたら、取引先にお金を払わなくても大丈夫です。でも、絶対に社員には給料を支払って潰れてください」と。やはり雇用している限り、自社の社員には絶対に優先的にお金をまわす必要があるのですね。

そこで。「少なくとも(人件費相当分)は現金で支払うよう、現金比率を高める」よう努力せよとしているわけです。もちろん、そのぶんのお金が社員の給料にまわるかはわかりません。でも、少なくとも、努力義務だというわけです。

労働集約型の製品と、加工機コストが主な製品かどうかで、もちろん人件費率は異なります。ただ、一つの目安は3割程度でしょうか。100万円の支払いのうち。30万円くらいは、現金化せよ、というわけですね。

そして3.です。<取引基本契約書には、支払方法を意図的に記載せずに、別途、通知書を提示するケースが多い。これは、(下請代金法)の規定で、(1年を超えない期間内)とされているからである>と書きました。世の中の流れが急速に変化するとします。現在は、たとえば、手形支払いをし

ているかもしれません。でも、そうしてしまうと、超インフレになってしまったら、下請企業に異常なほどの悪条件を課すかもしれませんよね。だから、1年を超えない範囲で支払い条件を設定せよとしているのです。だから、みなさんの取引基本契約書でも、支払い条件は、別途定めるとしているのではないでしょうか。こういう理由があったのです。

ということで、これまで3回を通じて連載してきました。調達・購買担当者として、契約書のなかでここくらいは注意しましょう、というポイント集です。もちろん、調達・購買担当者として、毎日のように契約書を見ることはないかもしれません。ただ、肝要点として頭の片隅に覚えていていただけると幸いです。

(了)

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい