現代離婚考(坂口孝則)

藤子・F・不二雄さんの短編に「分岐点」があります。男性の物語で、夫婦関係に悩んでいるとき、かつての恋人に再会します。現在の妻とくらべて、美しいままの彼女。男性は、いまの妻と結婚した人生、自分の選んだ道を後悔します。すると、パラレルワールドに遭遇し、かつての恋人と結婚した人生を経験します。男性は、すでにパラレルワールドにいること自体の認識はありません。高校生くらいで読んだ私は、「こういう物語が書かれること自体、そんなに世の中の男性は妻に不満をもっているのか」と感想を抱きました。

ところで、日本で夫婦はどれくらい離婚するのでしょうか。おおむね年間60万組が婚姻を届け、そして20万組が離婚します。厳密な計算ではないものの、割り算をすると三組に一組が離婚する計算です。離婚には協議離婚と調停離婚があり、前者ならまだしも、後者であれば裁判所に出向く必要があり1年はかかります。それに子どもや周囲の目や、両親など、さまざまな桎梏から離婚に踏み切れない場合は多いでしょう。

離婚理由については、司法統計年報を見てみましょう。離婚の動機別割合が記載されています。夫も妻も、もっとも「性格が合わない」をあげています。それ以降、夫は「異性関係」「家族・親族と折り合いが悪い」とのべ、妻は「暴力をふるう」「異性関係」とのべています。女性があげる、夫の暴力は深刻な問題です。しかし、双方とも「異性関係」をあげているのは不謹慎ながら興味深い実態です。

ところで、どれくらいの男女が異性関係上の問題を抱えているか疑問が湧きます。もっといえば、不倫や浮気などを経験、または、継続しているのでしょうか。話がそれるようですが、引きこもりの成人数を調査しようとするとき、「オタクの子はひきこもっていますか」と調査員がアンケート用紙をもってきても、少なからぬ親御さんが「違います」というでしょう。事実を正確に記述するのが難しいのです。

おなじく「あなたは不倫や浮気をしていますか」と聞いて、素直に答えるでしょうか。困難さがあるため、各種調査を鵜呑みにすることはできません。ただ、調査では、多く見積もっても男性の2割くらい、女性は1割以下ていどが経験しているようです。

この数を多いと見るか、まあそんなもんかな、と見るか意見はわかれるでしょう。ただ、facebookなどのSNSを出会いのメディアではなく、再会のメディア、と呼ぶひとがいるくらい、現代はつながりのきっかけにあふれています。それに、不倫を斡旋するようなアプリの宣伝が毎日のように画面にあふれています。継続した不倫・浮気調査はありませんが、数は増えていく傾向にあるのは間違いないでしょう。

私の周囲にいる離婚を経験した男女を見ると、幸せそうか、不幸せそうか、というと一概にはいえません。ただ、ここで、冒頭の「分岐点」に話を戻します。主人公の男性は、あったはずの、かつての恋人と結婚した人生も後悔しており、苦悩を抱えています。心のなかで子どもに「おまえもやがて人生の岐路に迷う日がくるだろう」「判断をあやまることのないよう、パパは祈るよ」と語るにいたります。どっちを選んでもおなじだったのですね。さてこの物語は教訓的でしょうか、それとも人間の悲しみを描いたものでしょうか。

<了>

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