バイヤの「超」基本業務 8(牧野直哉)

●見積書の「絶対」評価方法

見積書の「絶対」評価とは、サプライヤ1社からのみの見積提示で、適正価格を判断するための方法論です。対して「相対」評価とは、複数のサプライヤからの見積内容を相対的に評価して、もっとも良い条件のサプライヤを決定します。

1社からしか受け取っていない見積書で、価格を含めた提示内容が適正かどうかをどのように判断するのか。それは、バイヤが見積内容と対比するための基準を持ち、みずからの基準と対比して妥当性の判断を実現します。バイヤみずから持つ「基準」は次の3つの方法です。

1.コスト面から持つ基準
この方法は、サプライヤで発生するコストに着目します。バイヤ企業に納入されるまでに生まれる費用の種類と量を算出します。複数の種類の費用がある場合(こういう場合の方が多いはず)は、それぞれの種類ごとに算出した数値を合計して、購入金額と対比します。

(1)費用の種類
この方法では、どんな種類の費用が発生しているのかの見極めがポイントです。

①見積明細書
見積依頼に、条件として見積明細の提示を、あらかじめ含めておきます。サプライヤによっては、会社の考え方、営業パーソンの対応によって、明細が提示されないケースも想定されます。その場合は、バイヤが営業パーソンからヒアリングします。ヒアリングの場合、なかなか1回では明確になりません。将来的に同じ購買をおこなう場合は、次の機会で、前回の不足部分を補います。そういった積み重ねによって、長期的な視点で、費用の構造を明らかにします。

営業パーソンも、価格交渉の場面での明細確認は、応じにくくなります。それは、明細を知らない場合と、価格交渉に不利になるとの判断で、情報を提供しない場合に分けられます。前者の場合は、期限を切って調べてくるように依頼します。後者では、バイヤからリアリングのタイミングに問題があります。

サプライヤとの間で発生するトラブル、それもサプライヤに責任がある場合のトラブルは、費用の明細を明らかにするチャンスです。トラブルを回避し正常化への取り組みはもちろんですが、トラブルを発生させた「弱み」につけ込んで、いろいろな質問をします。製造業の場合、サプライヤの各工程に、どの程度の時間が発生しているかといった情報は貴重です。私は、納期トラブルが発生すると、どさくさに紛れて各工程での必要な時間の確認を心がけています。

②サプライヤ訪問時の確認内容
サプライヤを訪問する場合も、いろいろな情報を入手するチャンスです。メーカーであれば、工場を確認して、どんな工程で製品が完成するのか理解します。私は、工場見学では必ず、サプライヤ側で設定された工場見学のルートでなく、バイヤ企業に納入される製品の工程フロー順の見学を申し入れます。

どのような種類の工程が、いくつくらい合わさって完成するのか。これは、発生するコストの明細そのものです。工程フロー順の見学をすれば、原材料や部品の受領場所がスタートになります。原材料や部品の受領場所が整理整頓され、管理されている場合、以降の工程も同じように適切な状態である可能性が高くなります。

③さまざまな情報源の活用
先日、iPhone6が発売されました。注目を集める新製品は、こういったページ()で分解され、構成部品があらわになります。iPhone5Sなど、このページの通り、構成部品のコストまで調査結果が公表されています。

購入製品そのものズバリが、上記の例の通りコストまで含めて調査結果が公表されるケースは少ないでしょう。しかし、上記①、②で確認した各工程レベルや、原材料レベルは、調査できます。インターネットで検索すれば、製造工程を解説しているページを参照できます。こういったものづくりのプロセスを紹介した文献もありますし、Amazon.comで「モノ 原価」と検索すれば、さまざまなコスト構造の解き明かしに取り組んだ文献も入手可能です。

これまでにご紹介した情報ソースから得たデータを組み合わせれば、独自の価格判断基準の設定が可能です。この取り組みで重要なポイントは、独自の判断基準に柔軟性を持たせる点です。「絶対」として使い続けるためには、新たな情報を加えてアップデートを続けます。価格は変動する前提で、新しい情報を加えて、独自の判断基準のブラッシュアップを続けます。

(2)各種類の量

使用している原材料や部品と同時に、使用量もあわせて確認します。量的な判断基準には、2つあります。

①物理的な「量」
これは、重さや長さ、面積や体積によって判断します。原材料が1種類の場合は、シンプルですが有効性の高い基準です。一方バイヤ企業の基準がサプライヤとの間で合意事項になってしまうと、基準の見直しには多大な労力が必要です。

②機能的な「量」
これは、出力量や入力量、接点数で表現されます。電力に関係する場合は「KW単価」で表記されます。外観や物理的な測定では判明せず、購入仕様書に明記されます。価格との関連性は、①物理的な量と比較して複雑になります。

<つづく>

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