坂口孝則講演録「ものづくりフォーラム2014 spring」(坂口孝則)

「調達戦略の妥当性と施策の巧拙が 企業の競争力を左右する時代に」

技術力やマーケティング力など、各ものづくり企業の強さを決める要因には様々なものがあります。近年、業績に大きな影響を及ぼす要 因として注目を集めているのが、“調達”です。こうした時代を象徴するように、東芝の田中久雄氏や米Apple Inc.のTimothy Donald Cook氏のように、調達部門出身やサプライチェーンに精通している人物が巨大企業のトップに就くようになりました。2014年 5月27日に開催された「調達セミナー 戦略的調達・購買の実現に向けて」で坂口孝則は、重要性が高まる調達に関する最新のトレンドを披瀝しました。下記はその講演録です。

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・新手法が続出する世界の調達

まず、世界の先進的企業に見られる最新の調達を表現する3つのキーワードを挙げた。「Open Source(OS)調達」「Open Policy(OP)調達」「統合への対応性(integration responsiveness:IR)」である。まったくサプライチェーンを構築できていなかった企業が、ネットでサプライヤを公募することで、瞬く間に強力なサプライチェーンを構築できる時代になった。OS調達とはこのような開かれた調達体制が、高い競争力を生み出す時代になったことを象徴した言葉だ。

また、多くの企業で、原価明細を公開してくれるサプライヤと付き合おうとする動きが広がっている。調達する側の企業が、値段で買い叩くためではなく、キッチリと査定するために原価明細を求める。これがOP調達である。

そして世界中に分散した生産拠点を束ねて調達戦略を考えるようになった。これがIRである。

・日本の調達改革は進んでいない

こうした世界の先進的な動きと日本企業の実態を比べてみよう。坂口氏は「日本企業は、効率のよい調達体制への改革が進んでいると言われています。しかし実際には、喧伝される効果は見られません。GDPに占める輸入原材料額の推移と売上高に占める原価比率の推移が完全に連動していることから明らかです」と言う。これは、現状を打破する調達戦略の方針が定まっていないこと、キッチリと評価して一蓮托生で運命を共にすべき取引先を選択できていないこと、調達で果たす本社の役割が機能していないことが、その要因であると分析した。

・日本企業の特性と現状を活かした施策

さらに、日本のものづくり企業が、調達体制を刷新する上で、考慮すべき潮流を3つにまとめた。「プライスからコストへ」「戦略的癒着関係への脱皮」「手間暇調達から能力調達への移行」である。

ここで注目すべき点は、世界ではOS調達やOP調達といった外向きの付き合いを広げる方向に動いているのに対し、日本ではむやみに取引先を広げることを戒める提案をしている点である。坂口氏は、欧米の企業に対抗するためには、日本企業の特性と現状を活かした方策を取るべきとする。

これまで日本企業は、海外進出に伴って、現地の生産拠点での独自調達や、複数の国や地域のサプライヤから資材を調達できる体制を構築すべく努めてきた。そして、調達すべき資材を性質ごとに分けて、それぞれで最もコストを削減できる方法で調達するカテゴリー・マネージメントを行ってきた。

これからは、完成品の価値向上につながる特定の資材に関しては、日本国内で集中して調達する体制を整える。そして、コストではなく技術を尺度として、どの技術を日本国内に残すべきか、どの技術は海外企業間で競合させるべきか見定める。こうした新しいカテゴリー・マネージメントを提案した。

・運命を共にする取引先を育てる

日本の調達部門は、より知的な役割を果たすことが期待される。世界中の生産拠点で見つけたコスト削減のポイント、コストの阻害要因の排除案を集約し、応用可能な製品を生産している他の拠点に伝達する“マザー調達本部”としての役割である。この時、国内では、運命共同体となり、共に事業を成長させていくことができるサプライヤを厳選し、育成していかなければならないと強調した。

そして、こうしたパートナー企業を選ぶときのチェック項目として、「優位技術」「優位QCD」「改善力・海外進出」「経営安定度」の4つを挙げた。優位技術とは、常に新しい要素・加工技術を発掘・開拓していること、そして代替となる取引先が少ないことを指している。優位QCDは、他のサプライヤよりQCDの面で優れており、それが自社基準を満たしていること。改善力・海外進出とは、生産性向上や外部支出低減を改善でき、また海外進出に積極的であること。経営安定度とは、将来にわたって取引関係を継続できる経営基盤を持っていることである。

最後に、パートナー企業を育成するときの視点を提示した。調達部門は、サプライヤを、提供する資材の単価を尺度として評価しがちである。しかし、サプライヤが健全な経営を維持し成長するためには、受注量がとても重要な点に留意すべきだ。発注量を維持・増量を恣意的に管理することで、両者にとってメリットのある育成ができる。

<了>

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