ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
2-11 変化する調達購買担当者の役割
産業の空洞化に代表されるようなグローバル化の進展は、調達購買部門にも大きな変化を強いています。この大きな変化は、従来の「買う」に主眼を置いた調達購買部門でなく、「買わない」バイヤー業務の重要性が高まっている、そういえる大きな変化です。
☆教育できるバイヤー
調達購買の仕事は、品質面、価格面などでいかに有利な条件で購入するかが重要です。有利な条件で購入するためには、技術(スキル)が必要です。情報力、計画力と行動力。そして、これから重要さが増すスキルとして、「教育力」を挙げたいと思います。例えば、企業として海外に進出した場合、現地での調達購買活動を円滑に立ち上げるには、現地の状況に即したスキルを磨くと同時に、日本国内で調達購買活動を行うなかで培ってきたスキルを、進出先の現地雇用社員に伝えなければなりません。
それは、一般的に調達購買部門として必要とされる事柄もあれば、各企業の独特な慣習・ノウハウもあるでしょう。重要なのはもちろん後者です。そして、一般的なセオリーと、企業独自の慣習・ノウハウをどのように共存させ、日々の業務に生かしていけるかがポイントです。
この点は、明文化が困難かもしれません。しかし、暗黙知のままでは、進出先での運営にさまざまな問題が発生する可能性が高くなります。海外進出では、ハードとソフトの両面でのサポートが不可欠であり、調達購買部門に求められているのはソフト面です。
教育力を兼ね備えるためにはどうすれば良いか。それは、今自分がおこなっている業務を十二分の理解です。自分でできると、それを他人へ教えるのは全く違います。100%教える場合には、周辺領域を含め教える範囲以上と、教えるレベル以上の部分を理解しなければなりません。具体的には、今おこなっている業務の各プロセスのおこなう意義とか、意味と、前工程、後工程、やらないとどんな問題が起きるのかといった具体的な業務内容の詳細にわたっての理解が必要です。例えば、現在大手企業では情報システム化が進み、購入金額を現金でサプライヤへ支払う例は、ほぼ皆無です。多くの調達購買部門では、パソコンのEnterキーを押し、書類にハンコやサインすれば支払いが完了します。しかし、それは後工程で情報システムと関連部門が実際の支払いにつながる作業をやってくれるから支払いが完了しているのです。実際にどのようなプロセスで支払いが完了するのか。調達購買部門の後工程では、どんな業務が存在しているのか。多額の急な支払いは、自社にどんな影響をおよぼすのか。そういった後工程が理解できていないと、関連した調達購買部門内の業務を正しく教えられないのです。
専門性が高度化し、情報システム化の進展によって、パソコンに向かって事足りていると錯覚しがちです。実際にリアルな支払い、受け取りが、電子データの授受に変わっているといった部分もあります。しかし、調達購買部門にとって重要な支払いを「Enterキーを押す」程度の理解では、他人に教えられないのです。
☆仕組みを作るバイヤー
日常業務の中では意識しませんが、日々企業内情報システムを活用して業務を進めています。例えば、注文に必要な内容、サプライヤ名や価格を情報システムへ入力すれば、注文書が発行されます。また、調達に要するリードタイムや、必要納入時期もシステムに登録されており、パソコンを使用して都度照会するといった具合です。勤務先のサーバーがダウンすると社内の雰囲気が緩む、そんな経験をお持ちの方は多いはずです。それほどに、企業内情報システムは日常業務に不可欠な存在です。
調達購買部門は、海外進出先でも社内情報システムを使い業務を進めます。社内システムの立ち上げは、情報システム部門の業務かもしれません。しかし、海外進出先で立ち上げられた情報システムを、ユーザーとして活用し、システムと業務との整合性をとってきたのは、バイヤー自身であるはずです。情報システムは、使いこなして、業務のより効率的な運用が可能となります。そのためには、まず仕組みを正しく理解し、続いて情報システムを使いこなして、効率化を進めなければなりません。
自社が海外へ展開し、進出先でも調達購買機能を持つ場合を考えてみます。日本の調達購買部門は、海外拠点での調達購買機能を円滑に立ち上げるためにも、これまでのノウハウの蓄積を踏まえ、現地の仕組み作りに関与しなければなりません。これには、もう一つ大きな理由があります。
日本の調達購買部門と海外進出先での調達購買部門が協業して生む相乗効果も、企業として期待される成果の1つです。協力して業務を進めるためにも、支援を受けるシステムは、国内、海外拠点とも同じ方が効率的です。システムといった社内の仕組み作りを構築する際は、安易に情報システム部門の都合に任せるのでなく、システムを実際に使うユーザーとしての経験を生かして、仕組み作りに関与も、調達購買部門の重要な仕事です。また、海外には日本と異なる商慣習が存在します。日本と違う部分は、ユーザーである調達購買部門が情報システム部門に申し出て、現地の実情に合わせて改善しなければ、システムが業務遂行の阻害要因になってします可能性すらあります。
☆現状を改善するバイヤー
海外のサプライヤと比べたとき、日本のサプライヤの優位性を述べるとすれば、継続的なコスト削減への姿勢です。この姿勢だけは、海外のサプライヤでは真似ない、私はこれまでの海外サプライヤとの取引から、そう感じています。日本国内サプライヤの特徴であり、日本の優位性の源泉でもある継続的な改善活動を、海外のサプライヤでも実践し、成果の獲得は、重要な優位性の確保につながります。
現状に対する改善への取り組みは、サプライヤとの間でのみ存在するものではありません。海外進出先の拠点では、日本の調達購買部門の改善点を反映しつつ、さらに改善を継続的におこなわなければなりません。
将来的に、国内と海外拠点との間で、改善成果や、コスト削減成果の報告会をおこなって、ノウハウの共有をおこないます。グローバル企業では、頻繁にそのような取り組みが行われ、全体的なレベルアップに取り組んでいます。
海外進出先の、日本人だけでなく外国人の従業員のモチベーションアップのためにも、現地で改善をおこなった成果を日本側が評価し、国内、海外拠点全体で、成果を出した取り組み事例を活用が必要です。文化的な背景を越えた、継続的な改善への取り組みをグローバルに展開して、調達購買部門としての競争力の強化を目指すのです。
(つづく)