連載1回目「日本人はこれから何を買うのか」(坂口孝則)

・日本人の消費を描くということ

私が社会に出て16年が経った。そして、その16年間ずっと商品や製品を追いかけてきた。その個人的な経験から、日本の消費がどうなっているのか、そしてどうなっていくのかを論じてみたい。

私の興味は、その商品の原価はいくらか、誰が流通させ、誰が買うのか、そして市場はどうなっていくのか。いわゆるサプライチェーンやマーケティングといった分野だ。

私は、電機メーカー、そして、自動車メーカーを経て、コンサルティング会社に入社した。そこで小売業やサービスなどの各業界の仕事をした。まったく運が良かったのは、意図せずさまざまな業界と仕事をしたことだ。その意味から、これからの商品開発を考えるうえでの参考になればありがたい。

しかし、とはいえ、商品や購買活動について語るのは難しい。たとえばテレビではトレンドとしていくつもの商品を取り上げる。ただ、そのトレンドといっても、全体の消費のうちたった数パーセントにもいたらない。また、たとえばマズローの欲求5段階説などを引用して、これからは生理的欲求ではなく自己実現欲求を満たす消費活動にシフトする、といっても、食費や住まいなどの費用はいまだに消費の大部分を占める。

それに、商品を買う理由は、一つではない。キャラクターのソーセージを購入するとき、生理的に栄養を摂取する意味もある。かわいさに惹かれることもある。また、家族のために購入するかもしれず、あるいは、キャラ好きの集団に属したいかもしれない。また、その理由を消費者自身が理解できていないケースもある。

だから、商品や購買活動について語る際には、ある種の、著者の偏りは避けられない。また、商品を購入する理由を語ることは、どうしても文化や周囲の社会動向をふまえた「仮説」にならざるをえない。この意味では、私にとって挑戦でもある。

ただ、少なくとも、この消費のトレンドは私からはこう見えるという、挑発的な分析は盛り込んでおこうと思う。

・日本人消費の四段階目

この連載の結論をまず述べるなら、日本人の消費は、
●大量生産、大量消費
●顕示消費
●社会的消費

を経て、第四段階に進んだということだ。この三段階までは、いくつもの論者が指摘している。次の四段階目とは

●宗教消費

となる。これら四段階とは、特徴を述べたものであり、顕示消費の時代に大量生産や大量消費が存在しないわけではない。あくまで重なりながら、しかし、たしかな変化を帯びている。

ここで連載の開始として、各時代の概要だけ書いておく。

●大量生産、大量消費:単一商品を文字通り大量に生産し、安価な価格を志向する。
●顕示消費:ブランド商品など、他階層との差異がステータスとなり購買理由となる。
●社会的消費:ロハス、スローフード、エコロジー、フェアトレードなど、自己や共同体をこえ、国家・地球レベルでの「正しい」消費を志向する。

論者によっては、三段階目の「社会的消費」の特徴を、「つながりたい消費」「つながる消費」になった、という。たしかに、地球や弱者に優しい消費をするだけではなく、それをSNSなどで語るまでがセットであるとすれば、それは「つながりたい消費」「つながる消費」と同義だろう。
そして

●宗教消費:同一文化をもつカリスマに消費するようになり、悩みや葛藤を共有する集団そのものを志向する。
の到来となる。有名人が行うサロン、またたった数人の集まりであっても手芸作家などに募る。それまで宗教が担ってきた、満たされぬ者に耳を傾けたり、あるいはアドバイスを与えたり、そして共同生活を行う

さきほど、他の論者は第三段階目に”つながり”を位置づけていると紹介した。私は、便宜的に第四段階目として”つながり”を位置づけたい。通信や情報発信、情報交換の容易さが、この宗教消費を生み出したと考えるからだ。

・代表的な消費支出

そこで、総務省の家計調査をもとに、第一段階から、第三段階までの象徴的な消費項目を見てみよう。左軸は日本人世帯の年間支出額、右軸は年間の消費支出にしめる比率を示している。消費支出の可能な額は年によって異なるものの、その消費支出額のうち、その項目がどれだけ重視されているかを見るため、比率を計算した。
まず、自動車購入だ。

(↑自動車購入支出 *二人以上の非農林漁家世帯)

これを見ると、バブル崩壊の80年代後半、そして90年代前半をピークとして横ばいに推移しているとわかる。いや、しかし自動車は付加価値を極限まで高めることで、まだ消費を維持してきたと考えるべきだろう。

そして次に被服及び履物を見よう。これがすべて顕示的な消費ではない。ただ、傾向は見て取れる。こちらは90年代前半のピークから右肩下がりとなっている。

(↑被服及び履物購入支出 *二人以上の非農林漁家世帯)

そして、外食は、基本的に女性の社会進出とともに多く求められるはずだが、ピークから横ばいで推移している。外食産業全体も、この消費とおなじく低迷している。

(↑外食支出 *二人以上の非農林漁家世帯)

その代わり、多くの需要を取り込んだのは、内食(半完成食材)・中食(家庭内での食事)だった。コンビニエンスストアの急成長を例に出すまでもなく、そしてGMS(総合スーパー)が不調のなか、食品スーパーだけは順調に推移していった。

健康志向から、中食でいかに美味しいものをつくるかが注目された。ともなって、調味料などは堅実に推移している。

(↑調味料支出 *二人以上の非農林漁家世帯)

なお、よく引用される新生銀行の「お小遣い調査」によるとバブル期にサラリーマンの月お小遣いは8万円弱で、2015年には4万円弱にまで下がっている。一回の昼食代は800円から500円にまで下がった。下がる傾向と同時に登場したのがキャラ弁やデコ弁とよばれる華やかな弁当類だった。あれは節約志向のなか、見た目だけでも明るくしたい心理のあらわれだった。

これまで説明してきたものは、他との代替によって消費が抑制されてきたと考えられる。外食の代わりに、内食や中食が発展していった、そのわかりやすい構造だけではない。たとえば、自動車がなくても、スマホやタブレットがあれば、電子空間上で移動できる。また、自動車がなくても、宅配サービスが充実すれば、店舗から持ち帰る必要もなくなる。自動車はモノへの支出であり、宅配サービスは、文字通りサービス消費に分類される。ただし、その目的が同一の場合は、財の特性が違うケースであっても代替となりうる。

<了>

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