カラオケとヤンキー文化の考察(坂口孝則)
・全国民おじさん化、カラオケ、ヤンキー経済
国民が高齢化する=おじさん化する。
おじさんは先端の音楽についていけない。おじさんが摂取するのは過去の音楽である。社会人をやっていると音楽とのつながりは断てない。たとえば、カラオケ。カラオケは、歌唱力を誇示するためではなく、曲を通じてその場を一体化することにある(誰も知らない曲を歌ったときの、あの寒々しい空気を思い出してみよう)。「この曲なつかしい!」と、同じ時代を過ごした自分たちの仲間意識を、いささかノスタルジックに高揚させる。
現在、ヤンキー文化、ヤンキー経済なる言葉が流行している(ちなみに原田曜平さんの「ヤンキー経済」は快著だった!)。地元志向、仲間意識が高く、ショッピングモールと居酒屋、カラオケを愛する人たち。地方で仲間との友達関係を維持するために、おじさんがカラオケを使うようになる。そうすれば、カラオケのヒットチャートは、最新のそれではなく、過去の曲がランキングするはずだ。
とまあ、ここまでが私の仮説である。
本論は、この仮説が正しいかどうか、最後のカラオケヒットランキングについて検証してみた。
・たとえば10年前のカラオケヒットランキングから
ここで、たとえば10年前のカラオケヒットランキングを見てみよう。以下ではオリコンのデータ等を参考にした。
[2003年]
順位・タイトル・アーティスト名
1位・世界に一つだけの花・SMAP
2位・涙そうそう・夏川りみ
3位・地上の星・中島みゆき
4位・亜麻色の髪の乙女・島谷ひとみ
5位・Voyage・浜崎あゆみ
となっており、いまでもカラオケ常連曲が並んでいる。この年のヒットランキングは「ロードオブメジャー」「モンゴル800」などの、いわゆるメロコア派生バンドが並んでおり面白いのだが、ここでは置いておこう。
著者は、このトップ曲がいつ発売のものかを見てみた。たとえば、1位の「世界に一つだけの花」であれば、2003年3月発売だ(正確にはシングルカットされた)。
そこで、「古さ指数」を考案した。2003年に2003年の発売曲がランクインしているとすれば、2003マイナス2003で古さ指数=0だ。ただ、2003年に2000年発売のものがランクインしているとすれば、2003マイナス2000で古さ指数=3となる。数が多いほど古い曲がランキングしているわけだ。
そこで、サンプルとして、2003年のランキングに古さ指数をくわえてみる。
[2003年]
順位・タイトル・アーティスト名・発売年月・古さ指数
1位・世界に一つだけの花・SMAP・2003年3月・0
2位・涙そうそう・夏川りみ・2001年3月・2
3位・地上の星・中島みゆき・2000年7月・3
4位・亜麻色の髪の乙女・島谷ひとみ・2002年5月・1
5位・Voyage・浜崎あゆみ・2002年9月・1
この10年分をとってグラフ化したのがこれだ。
<クリックすると大きくできます>
うむ。古さ指数は、2013年のカラオケヒットランキングでは8.8にまで拡大している(つまり平均8.8年ほど経過したものがカラオケで歌われている)。参考までに載せておくと、2013年はこうなる。
[2013年]
順位・タイトル・アーティスト名・発売年月・古さ指数
1位・女々しくて・ゴールデンボンバー・2009年10月・4
2位・残酷な天使のテーゼ・高橋洋子・2003年3月・10
3位・小さな恋のうた・MONGOL800・2001年9月・12
4位・ハナミズキ・一青窈・2004年2月・9
5位・栄光の架橋・ゆず・2004年7月・9
国民のおじさん化、そして人間関係維持装置としてのカラオケ、ヤンキー文化とヤンキー経済の勃興から「過去曲が歌われるはずだ」という仮説を冒頭で唱えた。
批判を先回りしておくと、1位の「女々しくて」は2009年じゃなくて再発の2011年8月を採用したほうがいいんじゃないかとか、あるいは「残酷な天使のテーゼ」ある特定の層が歌っているのではないかとか、JOYSOUNDのカラオケヒットランキングとは微妙に違うじゃないかとか……はありうるかもしれない。
とはいえ、いくつかのランキングを見てみたものの、全体の傾向として「カラオケのヒットチャートは、最新のそれではなく、過去の曲がランキングするはず」とした私の仮説はさほど間違っていなかったように思われる。
当連載タイトルに無理やりこじつけるならば、カラオケの儲けのカラクリは、最新曲ではなく過去の曲にありそうだ。しかも、当然ながら時代とともに過去の曲は積み重なっていく。ロングテールのように、過去の曲が広く歌われ収益は加算されていく。
・そしてやはり誰もがおじさんになった
私が大学4年生のときだった。最新のクラブミュージックを聴き、また同時にHR/HMの新譜もチェックし、プログレ、ファストコア、そしてJ-POPにいたるまで、とにかく摂取していた。年長者が「最近の音楽はわからない、ついていけない」と語るのを見て、私だけはそうならないだろう、と確信していた。
しかし、社会人になった瞬間、ほんとうにわからなくなった。仕事の忙しさにかまけて、音楽ショップに行く機会も、ダウンロードする機会のも減っていた。だから、前述でいうところの、おじさんとは、まさに私のことでもある。
それにしても――、と思う。
最近の曲はわかんないから、昔のしか歌えないってのは、みんな同じだったんだなあ。
<以下、参考データ>
[2003年]
順位・タイトル・アーティスト名・発売年月・古さ指数
1位・世界に一つだけの花・SMAP・2003年3月・0
2位・涙そうそう・夏川りみ・2001年3月・2
3位・地上の星・中島みゆき・2000年7月・3
4位・亜麻色の髪の乙女・島谷ひとみ・2002年5月・1
5位・Voyage・浜崎あゆみ・2002年9月・1
[2004年]
順位・タイトル・アーティスト名・発売年月・古さ指数
1位・涙そうそう・夏川りみ・2001年3月・3
2位・世界に一つだけの花・SMAP・2003年3月・1
3位・さくら(独唱)・森山直太朗・2003年3月・1
4位・ハナミズキ・一青窈・2004年2月・0
5位・雪の華・中島美嘉・2004年6月・0
[2005年]
順位・タイトル・アーティスト名・発売年月・古さ指数
1位・花・ORANGE RANGE・2004年10月・1
2位・涙そうそう・夏川りみ・2001年3月・4
3位・ハナミズキ・一青窈・2004年2月・1
4位・さくら・ケツメイシ・2005年2月・0
5位・さくらんぼ・大塚愛・2003年12月・2
[2006年]
順位・タイトル・アーティスト名・発売年月・古さ指数
1位・青春アミーゴ・修二と彰・2005年11月・1
2位・桜・コブクロ・2005年11月・1
3位・粉雪・レミオロメン・2005年11月・1
4位・純恋歌・湘南乃風・2006年3月・0
5位・ハナミズキ・一青窈・2004年2月・2
[2007年]
順位・タイトル・アーティスト名・発売年月・古さ指数
1位・三日月・絢香・2006年9月・1
2位・桜・コブクロ・2005年11月・2
3位・純恋歌・湘南乃風・2006年3月・1
4位・Lovers Again・EXILE・2007年1月・0
5位・千の風になって・秋川雅史・2006年5月・1
[2008年]
順位・タイトル・アーティスト名・発売年月・古さ指数
1位・Lovers Again・EXILE・2007年1月・1
2位・蕾・コブクロ・2007年3月・1
3位・愛唄・GReeeeN・2007年5月・1
4位・キセキ・GReeeeN・2008年5月・0
5位・そばにいるね・青山テルマ feat.Soluja・2008年1月・0
[2009年]
順位・タイトル・アーティスト名・発売年月・古さ指数
1位・キセキ・GReeeeN・2008年5月・1
2位・愛のままで…・秋元順子・2008年1月・1
3位・Ti Amo・EXILE・2008年9月・1
4位・残酷な天使のテーゼ・高橋洋子・2003年3月・6
5位・366日・HY・2008年4月・1
[2010年]
順位・タイトル・アーティスト名・発売年月・古さ指数
1位・キセキ・GReeeeN・2008年5月・2
2位・また君に恋してる・坂本冬美・2009年1月・1
3位・ハナミズキ・一青窈・2004年2月・6
4位・残酷な天使のテーゼ・高橋洋子・2003年3月・7
5位・春夏秋冬・ヒルクライム・2009年9月・1
[2011年]
順位・タイトル・アーティスト名・発売年月・古さ指数
1位・ヘビーローテーション・AKB48・2010年8月・1
2位・キセキ・GReeeeN・2008年5月・3
3位・ミスター・KARA・2010年8月・1
4位・Gee・少女時代・2010年10月・1
5位・会いたかった・AKB48・2006年10月・5
[2012年]
順位・タイトル・アーティスト名・発売年月・古さ指数
1位・ヘビーローテーション・AKB48・2010年8月・2
2位・栄光の架橋・ゆず・2004年7月・8
3位・残酷な天使のテーゼ・高橋洋子・2003年3月・9
4位・女々しくて・ゴールデンボンバー・2009年10月・3
5位・キセキ・GReeeeN・2008年5月・4
[2013年]
順位・タイトル・アーティスト名・発売年月・古さ指数
1位・女々しくて・ゴールデンボンバー・2009年10月・4
2位・残酷な天使のテーゼ・高橋洋子・2003年3月・10
3位・小さな恋のうた・MONGOL800・2001年9月・12
4位・ハナミズキ・一青窈・2004年2月・9
5位・栄光の架橋・ゆず・2004年7月・9