会社を設立してからの地獄の日々~連載⑤(坂口孝則)
会社を設立してから、しばらくして出会ったひとについて触れなくてはなりません。それは、日本テレビのHさんです。当時、Hさんはコンサルタントの番組を制作なさっていました。どういう番組かというと、「芸能人がその場で悩みを打ち明け、その場で、解決に導く」というものです。
たとえば、想定されるのは「ギャラが安い」とか「今後、どういう方向に進めばいいか」など。しかし、考えてみるに、恐ろしい番組ですよね。そもそもコンサルタントといっても、事前の相当な時間をかけたリサーチと推論を重ねなければならないのです。その場で思いつきを語る仕事ではありません。しかも相手は芸能人です。「なんやその答えは」とか「現実的じゃない」とかいわれる可能性があります。
さらには、オチもつけなければなりません。さらには司会者もいますから、瞬時に答えねばなりません。もし失敗した際には、会社とコンサルタントに傷がつきます。もちろん、それで宣伝になるかもしれませんが……。Hさんの部下が私に連絡をしてきました。どうも、私を出演させたいというよりも、いろいろと断られたようでした。たしかF社のコンサルタントが断ったということでした。そこで、いろいろ探すと、サプライチェーンとか調達・購買といった専門のコンサルタントのようだけれど、番組企画に賛同いただけないか、ということでした。
私が悩んだかというと、悩みませんでした。というのも、その番組は一回だけ。さらに、司会は加藤浩次さんでした。それまでに何回か共演したことがあったのです。断ったコンサルタントは、加藤さんが「狂犬」のイメージでしたから、恐懼していたのでしょうね。
その番組には、ショーンKさん、平林亮子さんと、私でした。当日まで相当な打ち合わせを重ねました。私は平成ノブシコブシの相談と、元AKB48アイドルの相談を受けました。視聴者に結果は任せますが、それなりに瞬時に回答はできたのではないかと思います。すると、スタッフが打ち上げに呼んでくれました。
Hさんは、けっこう私が面白いのではないか、と思ってくれたようです。Hさんは日テレ「スッキリ!!」のプロデューサーも兼ねていました(当時)。すると、コンサルタント番組の収録翌週。インタビューをしたい、とのことでした。航空会社の経営課題と、LCCがなぜ安価に飛行できるのかをテーマにしたものでした。原価に関わる観点から答えました。
そして、何回か経営とか原価とかに関わるインタビューを受けたあとのことです。
その電話は突然やってきました。「○○日、おひまですか?」。インタビューかと思ったら、「コメンテーターのはるな愛さんがお休みなんです。テリー伊藤さんの隣に座ってくれるコメンテーターを探しています」。みなさんだったら、どう応えるでしょか。ちょっと前まで、工場でバダバタと駆けずり回っていたような人間ですよ。その仕事は、もちろん続けていますが、なんにせよ、その差がくらくらするほどです。
私はスケジュール帳を見ました。当日の予定は11時から某会社で打ち合わせでした。「何時までですか?」「10時25分までです」。やべえ、間に合うな、と思いました。「では、空けておきます」。
ほんとうは、この一回でゲスト出演は終わる予定でした。人生とは面白いもので、この一回が二回目につながり、そして、レギュラーになり5年も続くことになったのです。ここからあえて教訓を引き出すとすれば、「キャリアに戦略などなかった」「しかし、目の前に仕事をとにかく必死にやろう」ということです。なかにはテレビに出たいと思ったり、雑誌に出たいと思ったりして売り込むひともいるでしょう。しかし、私は、偶然にもこの世界に携わることになりました。
(つづく)