ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●大きな環境変化への対処 1~持続可能社会に貢献する調達購買部門

近年、CSR(corporate social responsibility:企業の社会的責任)の重要性は多くの企業で認識され、さまざまな行動へとつながりました。しかし、そういった企業活動とは裏原に、昨年も名門と呼ばれるホテルや、百貨店における料理の材料を偽装した問題が明るみに出ました。この問題は、当事者となった企業の調達購買部門や仕入部門が、顧客に提供する内容とは異なる品物を購入・仕入れて発生しました。発端となったホテルでは、誤表示があったと記者会見で発表した日から数日で返金額が1億円を突破し、宴席のキャンセルが相次ぐなど、多額の損害を発生させる事態となっています。理由はどうあれ、仕入れのミスが金額的な損害だけでなく、企業のイメージにも大きなダメージを与えています。調達購買部門の業務は、外部への支出を管理し、利益の拡大に貢献するだけでなく、正しく業務を進めなければ、長年培ってきた企業イメージを傷つける事態を生む可能性がはらんでいる事実を、強く認識しなければなりません。今号と次号では、そういったCSR意識の高まりを「大きな変化」としてお伝えします。

企業が事業活動において、持続可能性の確保は、今や必須の課題です。対応しなければ、最悪市場から淘汰される可能性もありますし、対応方法を誤って十分な成果が得られなかったリスクも大きくなります。ここでは、企業内で調達購買部門が担う持続可能性への役割を考えます。

☆持続可能性を確保するための調達購買とはなにか

従来のQCD(品質の向上:Quality、低コストの実現:Cost performance、必要な時期に届ける:Delivery Date)に代表される価格、品質、適正納期、および機能性など製品の経済性や購入価格を考慮するだけでなく、購入品のライフサイクル全体を通じて、環境に与える影響を考慮した上でおこなう調達購買活動です。2015年におこなわれるISO14000シリーズの改訂では、バリューチェーン全体での管理が求められる見通しです。

☆持続可能社会に貢献するための調達購買部門の取り組み

調達購買部門が持続可能性を達成するための実践的な取り組みは、次の6つに分類されます。

(1) コミットする
持続可能性を事業運営の中で取り組む意義を明らかにします。具体的には、調達購買方針の中に、発注側企業として具体的な持続可能性の確保を明記したり、サプライヤーに対しても、持続可能性の担保を発注条件として盛り込んだりといった形で明示します。そして、サプライヤーの評価基準の中にも、方針や発注条件にもりこんだ内容を織り込みます。

(2) 評価する
持続可能性に貢献するための、取り組みの範囲を決定します。具体的には、自社およびサプライヤーとの一連の調達活動に関連する持続可能性に関連した地球環境への影響要因、廃棄物管理や二酸化炭素の排出量といった評価対象を決定し、定量的に評価し、発注方針への反映をおこないます。

(3) 定義する
サプライヤーに対して、持続可能性を確保するための実施内容と目標を伝えます。これは(1)でコミットした内容を、サプライヤーへの要求事項として明確化し、具体的に提示します。

(4) 実施する
サプライヤーと協働し、調達購買活動の中で、持続可能性を確保する取り組みをおこないます。現状を正しく掌握し、必要であれば改善活動をバイヤー企業とサプライヤーの共同活動として実施します。

(5) 測定する
目標に対する達成度を確認・評価します。目標、現状および達成度のすべての情報を、バイヤー企業とサプライヤーが共有します。

(6) コミュニケーションをとる
確認内容は透明性を持って、サプライヤーと共有し、必要に応じて改善計画を共同で策定し、将来的な活動に役立てます。

☆持続可能な調達購買ガイドラインの設定

サプライヤーへ提示するガイドラインには、以下の内容を盛り込んで、バイヤー企業として順守する姿勢を明確化すると同時に、サプライヤーとしての企業活動においても、ガイドラインに沿った対応を求めます。ポイントは、バイヤー企業の発注側としての責任と、受注側のサプライヤーに関係する以下に記された責任は分離されない点です。発注側として、以下の3点の順守が発注時の条件であると、ガイドラインには明記します。

(1) 生産地の法令等を遵守し、生産された原料を調達する。
(2) 原料の採取等に伴う地域の環境・生態系への影響が配慮されている原料を調達する。
(3) 原料の採取等に伴う地域住民への影響が配慮されている原料を調達する。

これまでに述べた内容を、これまでの調達購買業務と分離して管理するのは非常に困難です。しかし、製品が多くの児童労働によって生産されていたとされるナイキの例や、スターバックスコーヒーのコーヒー豆調達で正当な対価を支払っていますといった例が示すとおり、グローバルに展開している企業にとっては、遠く海外の出来事として無視できないのです。持続可能性を担保しない企業といったレッテルは、企業の持つブランドを著しく傷つける結果につながるのです。

そのためには、現在の調達購買業務プロセスの中に、持続可能性を担保するための具体的な課題から、行動内容へと落とし込んで実践するしかありません。持続可能性の担保への取り組みの難しさは、実践するために発生するさまざまな費用の処理が明確でない、あるいは事実上処理できずに、部門の中で現在の予算の中でのやりくりを求められるためです。しかし、だからといって顕在化してからでは遅いのです。

(つづく)

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい