ご質問への回答(牧野直哉)

先日、私がフェイスブックに投稿した記事について、次のようなご質問を頂きました。今回は頂戴したご質問内容について考えてみます。

まず、私が投稿した記事はこんな内容です。

「世界の中の日本 品質でも中国に抜かれる寸前となった日本世界標準化も蚊帳の外に~品質立国の幻影」( http://bit.ly/w3s250 )経営コンサルタントの眞木和俊さんによるものです。ご自身は、外資系企業でのシックスシグマ立ち上げプロジェクトを基点に、その分野でも数冊著作がある方です。

記事の内容のポイントは次の通りです。

・日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた1980年代に確立された「品質立国」としての栄誉を、その後20年以上にわたり世界に対して揺るぎない地位として誇示してきた。

・近年のグローバル化と新興国の攻勢の中でその足元が揺らぎ始めている。また、多くの企業組織が直面しているベテラン団塊世代の退職と、業績不振による若手社員の採用減少により、改善ノウハウの社内継承が難しくなった。

・かつて自動車で勝利し、家電を支配し、世界一を誇ってきた「日本品質」が、アジア新興国を中心に自ら育ててきた後輩たちによって、その地位を脅かされている。

私はこんなコメントをしました。

「日本製造業の凋落の原因は、超円高だけではないと思っていたところにこの記事。う~ん、やばいね。」

この記事は、私が繰り返し主張している日本の置かれた状況を的確に表していると考えたものです。すると友人の一人から次のような質問を頂きました。

「日本の中小企業は、まだ中国、韓国の品質レベルを低いと見ていますが、見方をかえさせるにはどうしたらいいですかね?」

先日も新しい製品を発表した米国Apple社。私もiPhoneユーザーです。背面にプリントされたロゴを脇には小さく「Made in China」とプリントされています。一方、構成部品の約34%は日本製といわれています( http://bit.ly/wNtxmw )iPhoneに代表されるApple製品を普段使用している限り、中国でおこなわれた組み立て品質が低いとはいえません。機能はもとより外観への満足度は非常に高いわけです。

さらに、私が実際に新興国から調達してきた製品も、一概に「中国=品質が悪い」といえなくなってきています。高い品質を実現させ、維持している製品もあるのです。また、日本国内に目を向けても、元気な中小企業は、独自技術を売りにする会社、そして海外に子会社を設けて、国境を越えた協業を実現させている企業です。日本と中国他新興国の得意分野をうまく使い分け・活用して稼いでいます。

「日本の中小企業は、まだ中国、韓国の品質レベルを低いと見ている」とは、まず「国」という単位でサプライヤーの良し悪しを判断することが問題です。日本でも品質の悪いサプライヤーがあると同時に、新興国にも素晴らしい能力を持ったサプライヤーは存在する。調達・購買にかかわっているのであれば、日本以外のサプライヤーの品質は日本と比べて一概に劣っているとの認識を持つべきではありません。別に、国なんてどこでもよいのです。高い品質の製品を、適正な価格で購入することに、国境など意味がない。これから生き残るバイヤーは、サプライヤーの存在する国にとらわれるべきではありません。

国単位での見方が実際の評価に近かった時代、バイヤーも楽な商売だったかもしれません。日本国内のみを見ていれば良かったのです。そして一つ、私が現場に身を置いて日々感じることは、日本のサプライヤーよりも新興国のサプライヤーが、品質レベルが劣るサプライヤーが多い傾向が認められるということです。そんな前提を踏まえたとしても、概して、それも国レベルでどっちが良い、悪いとは言い切れないのです。

だからこそ、日本の調達・購買担当者は、自社の要求レベルに応じた適正なサプライヤーを見抜く眼力が今、求められているのです。そして、そんなことで培った眼力は、もう一つの質問の回答にもつながります。

頂戴したご質問にもあるとおり、サプライヤーがもし中国・韓国のサプライヤーを、中身をみることなく概して「品質が悪い」と評していた場合を考えてみます。これは「2つの軽視」によるものです。

一つ目の「軽視」は、まさに新興国サプライヤーの能力そのものを軽視している場合です。この原稿を書いている現時点では、平均的には日本の方が優れているかもしれません。しかし平均ですから、当然新興国側にも、そして日本側にもサプライヤーの品質レベルにはばらつきがあります。たまたま日本は、過去からの蓄積も幸いして、相対的に高いレベルのサプライヤーの割合が多いだけです。会社数としては少ないかもしれませんが、自社よりも高い品質レベルを持ち、安い人件費を武器している新興国サプライヤーの存在する可能性を認めるかどうかが問われているのです。一つ目の軽視は、安い人件費でかつ品質の高いサプライヤーの存在を根拠無く否定していることです。あらかじめ想定して対策を講じるか、存在そのものを否定するか。新興国のサプライヤーの品質が「概して」日本のサプライヤーと変わらないことが顕在化したときにどうなるでしょうか。

もう一つの「軽視」は調達・購買という業務への軽視です。

このメルマガの前半で、新興国サプライヤーとの協業を実現させている日本国内のサプライヤーを例に挙げました。たとえば超円高(ジリジリそうじゃなくなっているけど)で、人件費のドルベースでの高騰に悩んでいる事態を、安い労働力が不足していると理解する。そんな事態への解決策として、自社に不足しているリソースを外部から調達する、そう考えられていないわけです。

調達・購買が組織として存在する企業は、一定以上の規模である場合が多いですね。数人~数十人という規模の企業であれば、組織的にはまず存在しないといえます。組織を作れば良いわけではありません。しかし、外部のリソースを活用しないで存在し、存続できる企業はいませんね。ということは、組織は無くても調達・購買という機能は必要です。調達・購買の実作業は、社員で分散しておこなわれているでしょう。人は皆、日々の生活に必要なリソースを購入していますから、会社でも同じ事=買うことに違和感を持たないのです。社員はそれでも良いかもしれません。しかし、経営者ともなれば問題です。

別ないい方をすれば、環境変化への順応性の結果ともいえます。今、日本の多くの企業が直面している課題に、調達・購買から貢献できることはとっても多いのです。しかし、そんな可能性を否定していることになるのです。盲目的にバイヤー企業から見たら明らかに競合する新興国のサプライヤーを、頭から否定する。変化への対応を放棄しているわけですね。とっても残念です

最後に、そんなサプライヤーの見方を、調達・購買担当者として変えるにはどうすれば良いのか。もし冒頭の質問にあるようなサプライヤーに遭遇したときのアクションです。

まず、自分の担当する分野での新興国サプライヤーの情報を集め、調達可能なサプライヤーについて具体的な理解をしておくことです。頭から新興国を否定する相手に「そんなことないと思いますよ。だって……」と説明できる根拠を押さえておく。そして次のポイントが重要です。なぜ、現時点で新興国サプライヤーへの発注方針も合わせて説明するのです。新興国サプライヤーの採用を真剣に検討していること、この話は国内サプライヤーへの脅しではないということを示すのです。サプライヤーとは対峙するものではありません。大きな難局は一緒に乗り切るものです。ともに困難な状況を乗り越えられる相手かどうか、今回の問はサプライヤーの姿勢をはかる尺度にもなりえる,そんな質問でもある、私はそう考えているのです。

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