牧野直哉の「グローバルバイヤーになるための英語術」

第一回 最初の、そして最低限の自己主張

私の友人で、プレゼンテーションの達人と言われている人がいます。その達人は新入社員の頃に、自己主張のノウハウを教える研修を会社で受けたそうです。そういう会社があるんだぁ~という驚きと共に、自己主張の重要性について考えさせられました。

「日本人の特徴」には、どんなものがあるでしょうか。ネットでちょっと検索しただけでも、横並び意識、集団志向的、調和を重んじる、礼儀正しい・・・・・・中には最近怪しくない ?といった内容もありますが、それでも他人よりも自分を、自己主張を率先して行うといった国民性は薄いと言えます。

海外とのビジネスでは、当然外人とのコミュニケーションが発生します。電話であったり、メールだったり。そんな中で実際に会う場合、どんなことに注意すれば良いのでしょうか?先方が来日しても、自ら海外へ行ったときにも重要なことは、次の5つです。

1.お辞儀ではなく、アイコンタクトと握手

先日、謹慎していたアーティストが、ステージに立った映像をテレビでみました。映像に挿入されたテロップには「38秒」というそのアーティストがお辞儀をしていた時間、秒数が表示されていました。お辞儀をする姿を38秒間流すわけにもいかないテレビ局側の意向もあるのでしょうが、38秒もの間お辞儀をし続けた事に、意味を見出す日本人が多いことの示すエピソードだと思います。

日本人の特徴を示すしぐさとして、お辞儀をする。ハイウッドの俳優たちが、映画のワンシーンの中で、おどけてながらお辞儀をする・・・・・・そんなシーンを見た経験がある方も多いと思います。日本人を象徴し、日本人には奥深い意義を持つお辞儀ですが、海外とのビジネスでは、なかなか登場の機会が少ないですね。

では、お辞儀に変わる自己表現方法はなんなのか?私はアイコンタクトと握手だと思います。相手の目をしっかり見つめて、握手をする。この時に必要な英会話表現は、

“How do you do ?”

“Please to meet you.”

があれば十分です。もし握手をしているときに何か言われたら、穏やかな笑みを心がけましょう。ここでのポイントは、相手の目をしっかり見ること。「しっかり」の程度は、日本でやったら「なんか文句あんのか?」と相手に不快感を覚えさせる程度です。しかし穏やかな笑みは忘れずに。日本で不快感を覚えさせるアイコンタクトに穏やかな笑みが加われば、海外では自信と誇りに満ちあふれた皆さんの印象となって、相手に伝わるはずです。

2.握手は力強く

私はバイヤーですが、日本でサプライヤーの営業担当者と、握手はしません。しかし、海外のビジネスでは、会ったときと帰るときには必ず握手します。そう考えると、1でお話ししたお辞儀と同じ意味ですね。そしてこの握手で重要なのが力強さです。これまた日本ではちょっと失礼かな、と思うくらいに力強く握手をする事が必要です。この握手の力強さに、そのビジネスにかける意気込みが凝縮されると行っても良いくらいです。もし、そのビジネスに入れ込んでいるのなら、力一杯握手をしてやる気を表現してやりましょう。

3.日本語がわからない相手でも堂々と、リスナーの目を見て話す

「英語がわからなくても良いから、相手を見て話をしてくれ」

アメリカ人とのミーティングが行われて、社内の英語の達人が急遽通訳として打ち合わせに参加してくれました。二日間の予定の初日が終わったときに、日本人側の出席者へ向けて、英語の達人が放った言葉です。

その後も同じような機会が何度もありましたが、日本人はどうしても通訳へ向けて話をしてしまう傾向が強い。話をする側からすれば、日本語を解さない人に日本語で話しかけるのは、相手はまったく理解できないわけですから、 相手、そして自分がつらいですよね。相手のつらさには配慮すべきですが、自分のつらさからは逃げるべきではありません。言葉はわからなくても、相手の目を見るアイコンタクトはできるはずです。 英語が苦手だったら、できることは自信と誇りに満ちあるれた穏やかなアイコンタクトだけなのです。実際に相手がやって来たり、こちらが出向いたりして実現しているミーティングです。もし、通訳が訳す皆さんが話した内容だけが重要であれば、直接の面談は意味をなしません。会っているからには、皆さんの全身で、皆さんの主張を、そして皆さん自身を相手に理解してもらうことが重要であり、意味があるのです。きっと話をする顔の表情から感じとる事もあるはずです。これは、相手の話を聞くときも同じです。目を合わせたら話しかけられるなんて思うことなく、堂々と相手のアイコンタクトに応じましょう。

4.堂々とゆっくり動く

日本人は親切でやさしい・・・・・・そんな一般論に、私はいつも疑問を感じています。例えば欧米圏でのオフィスワーカーの行動範囲、それは我々が出張の際に足を踏み入れる場所でもあります。そんな場所で私は、さりげない人々の気遣いに触れる瞬間が数多くありました。飛行機の機内で、ターミナル間を行き交うバスの中で、女性や老人の荷物の出し入れを手伝っている人。エレベーターや会議室への出入りで、さりげなく女性を先に通す男性。こういった光景 は、私にはかなり微笑ましく、そして格好良く思えます。ある本によると、この「レディーファースト」の考え方は、アメリカ開拓時代のやむを得ない男女の置かれた状況を色濃く写しているらしいですが、日本では一分一秒を争って動いている人も、せっかくの異文化に触れる機会です。堂々と胸を御張って歩き、歩みの速度を落として、見るもの聞くものに興味を持ってはいかがでしょうか。エレベーターで、自分逝きたい階に着いたとき、われ先に降りるのではなくて、

“After you.”

と言って、ドアを開けるボタンを押してみましょう。きっと素晴らしい笑顔とお礼が、皆さんへもたらされるはずです。

5.我慢しない

これは、ある条件をともなって行動に移すべきです。ある条件とは「謙虚さをともなって」です。謙虚さを保ちつつ、我慢をしないとは一体どういう事なのでしょう。

私が数多く行ってきた海外出張は、ちょっとしたトラブルとの戦いの歴史でもあります。乗るはずの飛行機がいきなりキャンセルになった、レンタカーの予約情報が確認できない、ホテルの3部屋予約したはずが2部屋しか予約ができていない・・・・・・小さいトラブルを含めれば、毎回の出張で必ず「なにか」あります。そんな時、日本人の美徳である謙虚さ(これにも最近では疑問を感じる事は多いですが)を持って「しょうがない」と心から思わないことです。おかしいことには「おかしい」と声を出し、もし理不尽に遭遇してしまったら、穏やかに、そして激しく怒りを相手にぶつけるべきなのです。「英語ができないから」と、うやむやにしてしまう・・・・・・これが一番良くありません。笑顔も世界共通語ですが、怒りの表情も世界に通じるのです。

私がある出張で遭遇したとんでもない理不尽は、その日以降のスケジュールにも大きな影響を与える内容でした。いろいろな事へ思いを巡らせましたが、私に落度は見あたりませんでした。そして、解決策を真剣に探していないと感じた私は思わず言いました。「いい加減にしろ!責任者を呼べ」これ、書いたまま日本語で言いました。すると、相手の顔色が少し変わって結果、100%は無理でしたがある程度リカバリーされ、予定変更の度合いも少なくて済む解決策が提示されるに到りました。困ることには、困る!と意思表示をする。困り具合で我慢するかどうか?を決めるわけですが、私は日本にいるときよりも、自己主張する境界線を少し下げています。その方が、自分に好ましい状況になることを経験から学んでいるからです。しかし大衆の面前で、怒鳴り散らすのはスマートではありません。文句を言うときも、低い声でゆっくり、それでいて強い意志を感じさせる言い方が、我々バイヤーに今、求められているのです。

☆今日の3センテンス

“How do you do ?”

“Please to meet you.”

“After you.”

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