ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・在庫が悪いというのはどういうことなのだろうか

私は頭が悪い。先輩から教えてもらったことも、どうもすぐに納得できない。世の中には頭がいい人がいて、すぐに理解する人がいる。あるいは、完全に理解していなかったとしても、理解しているように振る舞うことがうまい人がいる。そして、多くの場合は、振舞っていたとしても、何の問題もない。根本的に理解しようとする態度は、ときに弊害ですらある。

しかし、「物分りの悪い自分」が嫌いだとは思わない。誰もがさらりと流してしまう「常識」を疑ってみることこそ、自分の弱点でもあり強みでもあると思うからだ。私は、かつて、「調達力・購買力の基礎を身につける本」という本のなかで、このように書いたことがある。

私が見る限り、これまで活躍していたバイヤーは設計部門出身か転職組でした。おそらく、彼らの共通点は、通常のバイヤーよりも数倍凡人だったことです。秀才の集団に紛れ込んだ凡人だったために、活躍し現状を変えていくことができたはずです。

ここでいう「凡人」とは、これまでの調達・購買業務のやり方に疑問を感じ、普通の人が納得してしまう程度の世渡りさえ習得せずに、一つ一つの常識を「本当に正しいかどうか」を検証せざるを得ない人のことです。それに対して、「秀才」とは組織の常識に上手く乗っかり自部門を防衛しようとし、その場その場を上手くやり過ごしていける人のことです。調達力・購買力の基礎を身につける本」P202>

自分の文章を写すというのも妙な経験だけれど、この考えは未だに変化していない。その意味では、私はずっと「凡人」でいたいと思うのだ。

さて、今回考えたいのは「在庫」の話だ。以前から「在庫は悪い」と言われてきた。それに、在庫を持つことで支障が出るという。では、なんで在庫が悪いのだろう。それは、なんとなくは理解できる。でも、私が知りたかったのは、定量的に「いくら」悪いかということだったんだ。

調達・購買担当者はモノを買うことを仕事にしているから、在庫を溜めてしまうことがある。それが悪いこととなんとなくは理解しているけれど、もっと具体的に教えてほしかった。

たとえば、材料をまとめ買いすることで安くするコスト削減手法がある。でも、まとめ買いするってことは在庫になりやすい(在庫にしてしまう)。そのときに、何%以上のコスト削減を達成できれば在庫化しても良くて、何%以下だったらまとめ買いは許されないのだろうか。

教科書を読んでみると、在庫が悪いことについてこう書かれていた。

・資金が有効活用されない
・破損や劣化等のリスクが発生
・在庫管理費用の発生
・社内倫理の低下
・生産等、社内問題の隠蔽

なんだかよくわからなかった。100万円ぶんの在庫を1年持ってしまうとすると、いくら分の悪さをしたことになるんだろうか。その計算と根拠を知りたかった。

私は上司に訊いてみたことがある。「在庫が悪いといっても、1年もすれば使ってしまいますよ。置いておくだけだから悪くないでしょう?」と。そのときも、いまいちハッキリした答えをくれなかった。

そこで、私は「資本コスト」の考えに行き着いた。これも在庫のことをずっと考えてきて5年くらいが経ったときのことだ。

・在庫が悪い、というときの具体的計算方法

「資本コスト」の考えを理解すれば、在庫の悪さも理解できる。どういうことだろうか。

すごく簡単な企業を想像してほしい。これは以前も使ったことのある図だ。

ある企業に100円を投資した人がいるとする。その企業は、外部から60円ぶんの製品を調達してきて、内部製造原価として30円のコストをかけて(これで合計90円だ)、それを110円で販売する。そうすると、利益は20円だ。ほんとうは、経常利益や税引前当期純利益の考えを盛り込まなければいけないので、ここでは概要だと思ってほしい。

そうすると、企業体という貯金箱に100円を入れたこの投資家は翌年に20円のリターンを得る。利率が20%だというわけだ。
(ROAとは「総資産利益率」のことで、総資産と利益の比率を見るものだが、今回はそこまで深く立ち入らない)

ここでは利益をすべて投資家にまわすことにしている。もちろん、投資家が10%のリターンを要求しているのであれば、10円を投資家に渡して、残り10円は企業内部に留保することができる。

この考え方が在庫を考えるに重要だった。

というのも、上記の図では、投資家から得たお金をフル活用して、販売商品の生産につなげていた。でも、在庫として滞留させてしまえば、その在庫はお金(=利益)を産まない。投資家から得たお金は、どんどん増やすことによって、翌年には20%をお返ししなければいけないのに、その20%分をムダ使いしているのと同じだったんだ。

厳密な説明ではないけれど、これを「資本コスト」と呼ぶ。みなさんの働いている会社は多かれ少なかれ、銀行から借金をし、投資家からお金を預かっている。それはタダではなく、年利何%かでお返ししなければいけない種類のものだ。

たとえば、株主からリターン5%を要求されているところだったら、100万円の元手を翌年には105万円に増やさなければいけない。そして、その差額の5万円をリターンとしてお返しするのだ。

逆に、その100万円を在庫として滞留させてしまっていたら、5万円分のロスが生じていることになる。私は自分の発言である、「在庫が悪いといっても、1年もすれば使ってしまいますよ。置いておくだけだから悪くないでしょう?」を紹介した。しかし、とんでもない! 在庫を1年間も置いておくということは、5万円分のコストをロスしていることと同義だ。その100万円分の在庫を、たとえば1~4%コスト削減して安く調達してきていたとしても、それはまったく意味のないことだったんだ(5%のロスが生じている)。

では、具体的に、みなさんが働いている会社では、何%のロスが生じているのだろうか。100万円の在庫があったときに、その在庫は何万円相当のロスがある、といえるのだろうか。

それは損益計算書と貸借対照表とキャッシュフロー計算書(または株主資本等変動計算書)を見ればいい。次回はその見方をお教えしたい。具体的にウチは在庫を持つと「何%ロスがあるんですよ」といえるために。

<つづく>

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