ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
バイヤーとして品質にどう関わっていくか 4
前回は、新規サプライヤー採用でバイヤーがどのように品質に絡むかをお話しました。新しいサプライヤーと知り合った初期の段階でサプライヤーの全体像を掌握し、危惧する点があれば関連部門へ周知し、対策を講じることが目的です。そういった具体的な活動を通じて、バイヤーとして品質に関心があり、品質改善への具体的な関与も行なうバイヤーであることを関連部門へ周知するのです。ここで一つ大事なポイントを確認しておきます。
バイヤーとして品質に関わることは必要だし、重要です。しかし、サプライヤーの品質レベルが自社の要求レベルに合っているかどうかの最終的な判断を下すのは、あくまでも品質保証部門であることを忘れないようにします。このようなスタンスを取るには根拠があります。企業内で「買う」為には、個人の「買う」とは異なって、意思決定の権限が分散していることはこれまで述べたとおりです。分散しているけれども、最終的なサプライラー選定の責任は調達・購買部門にあります。で、あるならば、新規サプライヤーの選定のプロセスにおいて、品証部門がどのような判断を下すのかについて、調達・購買部門として状況を掌握する必要があるのです。繰り返し、品質の妥当性を判断する権限は品証部門にあります。品証部門と調達・購買部門は同じ社内です。サプライヤーからはアクセスできない情報にも、調達・購買部門であれば入手することが可能ですね。最終的には企業の業績拡大に繋がる点を抑えれば、品証部門の評価という情報は、調達・購買部門の大きな武器になるはずなのです。私はこれを「内なるサプライヤーマネジメント」と位置づけています。サプライヤーマネジメントはやることなすことすべて外部へ向かってではないのです。
そして今回はサプライヤーの継続評価に際しての品質とのからみ方です。
基本的に新規サプライヤー採用と変わる点はありません。ここでの前提は、新規採用の際にQCDのバランスが良かったサプライヤーも、時の経過と共にバランスを崩している可能性があるということです。昨日供給されたモノが良くとも、今日それが同じでない可能性もあるということです。品質レベルの維持には、向上と同じような継続的な取り組みが必要です。仮に、新規採用時点で品質レベルの向上が必要であったとします。採用へ向けて品質向上活動をおこなったものの、一定の成果が出たことで、品質向上のアクションを止めてしまうと、その瞬間から品質レベルは低下してゆきます。品質への取り組みは、繰り返しますが継続的に実行する必要があります。品質への取り組みをサプライヤーがどのように実行しているか、その一端はバイヤーにも確認することが可能です。
例えば、製造業の工場を訪問した場合です。以前に見学をおこなっていても、必ず再びの工場見学をサプライヤーへお願いします。訪問する際には、工場見学に要する時間を予定へ織り込んでおくことが必要です。そしてサプライヤーの既定の工場見学ルートでなく、自社に納められる製品のサプライチェーンに沿ったルートでの見学を希望しましょう。その際に参考となる資料は、過去におこなった工場見学の際の報告書です。過去との対比でなにか目に見える変化があるかどうか。変化を確認した場合には、変更内容の詳細を確認します。確認内容としては、
1. 変更目的
2. 具体的な変更内容
3. 変更に伴う事前のリスクアセスメントと、想定リスクへの対処
の3点です。変更内容が予めバイヤー企業側に報告されていなければ、聴取した内容を社内へ展開し、品証部門からはコメントを求めます。
この継続を前提としたサプライヤーの品質評価は、サプライヤーマネジメントの一環として行なわれるべきものです。比較的重要なサプライヤーには、定期的におこなっている(はず)ものですね。しかし、バイヤー企業側の重要かどうかの判断と、不具合が起こるかどうか、その可能性に相関関係はありません。かえって、重要でないとしていたサプライヤーにこそ、品質面でのリスクが潜んでいる可能性もあります。このような前提に立つと、取引のあるサプライヤー全方位的に品質確保の取り組みを行なわなければなりません。ここで日々調達・購買業務を実践されている皆様に質問です。すべてのサプライヤーに同じような品質確保の取り組みを実行することはできるでしょうか。非常に安価な製品でも、最終製品に組み込まれた後に不適合が発覚すれば、被害は大きくなります。一方で、すべてのサプライヤーに対して、バイヤー企業側から同じようなアクションを実行することもできない。大きなジレンマの中で果たしてどのように動くべきなのでしょう。
ちょっとズルいかもしれません。ここではあえて「バイヤーのできる範囲」とします。できる範囲とは、そもそもバイヤーには本来の職責がありますよね。新規サプライヤーの開拓や、既存のサプライヤーの取引におけるコストダウン活動。企業毎に軸足の置き方は異なるでしょう。その活動の一環として、バイヤーとしての品質対応を実践します。例えば、次のようなチェックであれば、バイヤー本来の訪問目的+αとして短時間で実践できますよね。
品質管理の前提条件として「5S:整理・整頓・清潔・清掃・躾」の必要性が説かれます。5Sが現場で実現されているかどうかは、バイヤーでも確認可能ですね。ここで5Sが実践されているかどうかを判断する一般的なチェックポイントを挙げます。
【整 理】
1.通路・棚・設備の周辺に不要品はないか
2.棚・キャビネット・作業台に不要品は置かれてないか
3.仕掛品置き場等に物が必要以上に置かれていないか
4.机の中・周辺に不要品は置かれていないか
【整 頓】
5.ラインテープに汚れ・剥がれはないか
6.物の置き場、管理責任者の表示は正しくされているか
7.工具類は使用後、正しく元の位置に戻されているか
8.物は正しく置かれているか(棚・キャビネット・机)
【清 掃】
9.床・通路にゴミ・汚れはないか
10.現場設備に汚れはないか
11.配線などが床に垂れ下がっていないか
12.窓・壁・ドア・休憩室などの施設に汚れはないか
【清 潔】
13.掲示板はわかりやすく掲示され、整然としているか
14.物の置き場・仕掛品などが目で見てわかりやすいか
15.表示はわかりやすいか(一見して判断可能か)
16.整理・整頓・清掃は総合的に維持されているか
【しつけ】
17.5Sに関するルールは決められているか
18.社内のルールは守られているか
19.椅子・キャビネット等は決められた場所に収納されているか
20.整理整頓・清掃・管理それぞれの基準は守られているか
これらの項目について確認を行ないます。ビジネスを継続するサプライヤーへの確認です。複数回の推移で良し悪しを判断することが必要なのです。