ただただ回数を重ねるという方法(坂口孝則)
・100億の創作、1000億の駄作
「思考停止ビジネス」を上梓しました。私は、「1円家電のカラクリ 0円・iPhoneの正体」のときより、「消費はもはや労働になってしまった」と述べました。誰が愉しんで買い物しているでしょうか? 無数のダイレクトメールや宣伝広告。まるで私たちは消費を強制させられているようではないですか。消費とは、工場のベルトコンベアーの最終工程に位置された、一つの労働行為なのです。
とすれば、販売側も、その消費という労働を加速させるために、さまざまな手法を編み出してきます。消費者の思考を停止させ、そのまま財布を開かせる手法です。
私が2年ほどまえに書きました「営業と詐欺のあいだ」を進化・深化させたものとして「思考停止ビジネス」があるのではないか。それが今回の出版の原点です。
さて、今回は私の本の宣伝ではありません。ほんとうは、この「思考停止ビジネス」の帯に堀江貴文さんが推薦文を書いてくれたなどの連絡事項はあるのですが、それはまた次回に譲りましょう。
今回は、このように作品を多産する人たちの特徴について、です。
先日、経済評論家として有名な三橋貴明さんと話しました。氏は年間15冊もの本を出版するなど、「恐るべき速筆」で知られる人です。しかも、すべて自分で書いていらっしゃいます。そのコツは? 「とにかく書くことでしょう」だそうです(笑) これはノウハウにはなりませんね。
では、どうやって世の中に出たのですか? 「書き続けることですね」だそうです(笑) これまたノウハウにはならないことかもしれません。しかし、後者の「書き続けることですね」は、たしかに真実の一つを抉り出している、と私は思います。
ゲームクリエイターとして有名な渡辺浩弐さんはプロになる人の必須条件として「作品を100個作ることができること」を挙げています。たとえば、小説家であれば、短編でもかまわないので、100個の作品を書くことができるか。キャラクターデザインなら、100個の顔を書くことができるか。「子連れ狼」の原作で有名な小池一夫さんも、「毎日キャラクターを作ることができれば、そいつはプロになれる」とおっしゃっています。
ここで重要なのは、作品の質について、なんら言及されていないことです。たしかに、博報堂のCMプランナーとして有名になり、独立後も著作でヒットを飛ばしている中谷彰宏さんも「質にこだわる人間はろくなもんじゃない。自分がコピーを考えるときは、1000個考える」とおっしゃっています。
また、森博嗣さんも自著のタイトルにこだわりのある人で、インタビュアーからの「タイトル案は何個お考えになるのですか?」との質問に応えて「最低でも200~300」と即答なさっていました。「夢をかなえるゾウ」で一躍有名になった水野敬也さんも「凡人が天才に勝つためには、数で勝負するしかない」と断言なさっていました。
具体例は、そのほかにもいくつも思いつきます。
要するに数なんですね。
手前味噌ですが、私が「世界一のバイヤーになってみろ!」を開始したときに、目標ととしたのは「毎週1つずつ、それを2年間続ける」でした。結果は、100号を超え、200号以後もずっと続いています。この有料メルマガにしても、いまのところ(隔週を約束として、実質は毎週)記事を書き続けています。
私はずっと無料で続ける気はありませんでした。いつか無料から有料にしようと目論んでいたのですね。ただし、そのとき先人たちが言っていた「最低100個の作品を作ることができるか」を自分に課していたわけです。案の定、先人たちのアドバイス通りに、私は自分の作品を出版や講演の形で社会に提示することができるようになりました。有料メルマガもその一環です。
・ただただ回数を重ねるだけという勇気
ちなみに、私はこの「ただただ回数を重ねる」方法が気に入っています。というのも、凡人にとって名作を狙うのではなく、「量こそ大事」と決めつけていただけたほうが気がラクになるからです。100個も作成していれば、そのなかにゴミのよな作品や、読み返す気にすらならないものもあります。
でも、それでいいと思うのです。重要なのは量ですから。
私はかつて「みんなはアラジンの魔法のランプをすでに持っている」と書いたことがあります。アラジンの魔法のランプとは、こすると魔人の精が出てきて、なんでも希望を叶えてくれるアレです。アレをみんなすでに持っている、とはどういうことか。単に、「こすればいい」だけなんですね。自分が作品を作る、そしてそれをささやかながら社会に公開し続ける。そうすると、そのうち賛同者や、次のステージにあげてやろうという人が出てくる。希望があれば、その想いを抱き続けるだけで良い。これはかなり勇気をもらえることなのではないか。
実は、私はいま一つの実験をしています。それがうまくいくかはわかりません。ただ、私は自分が「アラジンの魔法のランプをすでに持っている」ことを知っています。だから、前回同様に自分の作品を作っては公開しているだけです。そのうち、その魔法のランプに気づいて、その作品を大々的に取り上げてくれる人が、きっと出てくるはずです。
どうぞ、みなさまご期待ください。
もし、自分も作品を作って、それを公開したいという人がいらっしゃるかもしれません。そのときにどうすればよいか。私はコツは二つあると思っています。
・一日のうち、まったくアイディアが思い浮かばなかったとしても、一定時間は机に座ること
・作品は、キリのいいところまで仕上げるのではなく、中途半端に終わらせること
この二つです。前者は、自分の脳に「創作しなければいけない」と意識づけることです。そして、後者は脳に「続きを作りたい」と思わせることです。人間は中途半端がとても嫌いなので、どうしても中途半端になってしまった作品を完成させようとするのですね。だから、たとえば小説だったら、1章をまるごと書いて休憩するのではなく、1章の中途半端なところで休憩するほうがいい。そっちのほうが2章へスムーズに移行できるものです。
人生を変えようと思ったら。
そんな大袈裟なことではないかもしれません。しかし、「ただただ回数を重ねる方法」こそを、私はみなさまに伝えておきたいのです。まだ見ぬ多くの活躍者のみなさまへ、またどこかでお会いしましょう。