ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

新・交渉論 2~交渉実行

前回は、交渉論の第一回目でした。前回の内容を簡単に復習します。前回のお話では、交渉を三つの段階に分けました

準備

交渉実行

交渉結果のレビュー

その上で、前回は行なうべき準備について、お話したわけです。

今回は、前回お話しした準備をベースとして、実際の交渉実行について述べます。まず、前回示した交渉の定義を再度参照してみます。

「それぞれ利害関係にあり、意思決定権をもつ2社以上が、自社にもたらされる利害の調整を行ない、その結果を同一の目的として共有し、目的達成のために実行へと移すことを約束する一連のプロセス」

今回は具体的な交渉実行プロセスとの位置づけです。しかし前回「日々刻々」に行なう準備の必要性をお話ししました。従い、今回は日々の業務の中で、

「値上げ要請が来た」

「年間契約をする季節になった」

「営業から、競合メーカーに勝つためのコストダウンの要請があった」

という、きっかけの部分から考えてみます。

なんらかのきっかけでサプライヤーと交渉を実施するわけです。実際の交渉を目の前にして考えるべきは、相手の交渉者は誰なのか、という点です。交渉実行に際して、交渉の主体者、交渉時の主な発言者が誰なのかは、交渉の行方にも大きな影響を及ぼします。

大きな影響とは、交渉相手の職位、ポジションによるものです。例えば、サプライヤーが、普段の営業担当者だけでなく、上位者(係長、課長、部長、役員や社長)を連れてくる場合。自社の出席者をどうするのか、を考えねばなりません。サプライヤーがどのようなメンバーで来るのかによって、交渉内容に対する相手のスタンス(=重要度)を測ることもできます。そして、なにより上位者の同席は、交渉内容に関する意思決定権を持つ人間がその場にいる可能性も高いわけです。これは、交渉のその場で意思決定を行なわせるのが目的ではありません。交渉の後、サプライヤーへの様々なアプローチを検討する中で、各社に存在する決裁権でなく、実質的に意思決定関わるキーマンは誰なのか、を明確にする極めて重要な場面となるのです。サプライヤー側社内の意思決定プロセスをうかがい知ることができる瞬間にもなるわけです。

そして、交渉相手の出席者が誰なのか、という情報は、是非先に入手すべきです。その上で、自社側の出席者を、戦略的に決定する。戦略的とは、以下の図をご参照下さい。

<クリックすると、大きく表示されます>

この図表で、関連部門も含め誰が出席するのか、を可視化することが可能です。上記の図表では、サプライヤーと自社共に、担当+課長が出席することを表しています。双方出席者の「格」に配慮すべき場合は、上記図表で塗りつぶして表現される出席者の範囲=面積を同じくすることが優先されます。しかし、毎回の交渉に同じ面積である必要はありません。交渉時の出席者数にあまりアンバランスが過ぎると、どちらかが一方的に吊し上げるとの場を演出することになります。吊し上げする方は良いですが、されるのはできれば避けたいですね。そして要すれば、関連部門の同席も自社の主張内容と、交渉相手の出席者を見て判断することもできます。会社対会社の交渉の場合、どんな人間が来ていても、前提条件としてその発言内容は、個人のものでなく会社を代表していることになります。そして、出席者が上位者であれば、より一層その発言への重みが増すことは言うまでもありません。

そして次に考慮すべきは、どこで交渉するか、交渉場所です。基本的に、バイヤーとサプライヤーの交渉では、サプライヤーがバイヤーの元へ来てくれるケースが多いでしょう。バイヤーにしてみれば、戦いの場所がホームになるわけで、好ましい状況ですね。しかし、私は敢えてサプライヤーを訪問しての交渉実施という選択肢も、簡単に捨てるべきではないと考えています。

とっても月並みな例です。ある映画のCMで何度も流されていましたので、ご記憶の方も多いでしょう。

「事件は会議室で起こっているのではない、現場で起こっているのだ」

我々がサプライヤーから購入するモノやサービスは、いったいどこで形作られているのでしょうか。サプライヤーの工場であり、オフィスですね。そこは、あらゆるコストの発生源でもあります。当然、自社へ提供されるモノやサービスの当事者は、すべて工場やオフィスにある、そして居られるわけです。

私はこれまでに何度も、交渉の場で初めて明らかになる事実を知るという場面に遭遇しています。バイヤーとしては、相手の事情を正しく理解できていなかったという点で深く反省すべきです。自社の欲するリソースに関する情報がすべてある場所での交渉とは、お互いの齟齬を無くすには大きなチャンスなのです。だって、わからないことがあれば、その場で確認できるのです。ものづくりであれば、実際に製造現場へ足を運んで状況を確認したり、その場ですぐに改善策を見いだしたりすることも可能です。

バイヤーの実務を行なっていれば、担当しているサプライヤーは、少なくても数十社に及ぶでしょう。なので、いちいちサプライヤーになんか行けないよ、といったご意見もあるでしょう。しかし、です。バイヤーとしての皆さんの意向は、正しくサプライヤー側の当事者に伝わっているでしょうか。百聞は一見にしかずという言葉があります。しかし、伝聞よりも直接話をする方が、より一層真意を伝えることが可能です。そのようなチャンスが、サプライヤー側で行なう交渉にあると考えるべきなのです。

ただし、です。バイヤーがサプライヤーの元を訪れて行なう交渉とは、そんなに数多く行なうべきではありません。これまでおこなった事がない、という状況が生む、機会の希少性も交渉結果に少なからず影響を与えます。そしてなによりアウェイでの戦いです。普段と違った状況での戦いであるからこそ、前回お話しした準備がより一層重要になってくるのです。

<つづく>

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