ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
コストテーブル 5 ~フィルターと並べ替え
前回は、購入するモノ・サービスの仕様からコストに影響を与えるキーファクターにより分布図を作成しました。今回は、蓄積したデータの活用方法です。
今回のコストテーブル作成法では、データは何もかもあれもこれも蓄積することを前提としています。なにもかも、あれもこれも蓄積すること、それは面倒であるという、私の様なフツーのバイヤーには越えがたい壁が存在します。それでなくても日々忙しいのに、そんなことやっていられないよ、って思ってしまいますね。
私が資材調達部門へ異動して、バイヤーとなった十数年前のことです。いきなり数十社の担当サプライヤーを与えられて、日々の手配品のサプライヤー選定と、購入品の価格決定が仕事になりました。サプライヤー選定は、過去の実績や、設計担当者への確認で乗り切ることはできました。しかし価格は異なります。交渉なるものを行なって、サプライヤーと折り合いをつけ決定し、社内的な稟議を通すことが必要でした。
これは困りました。確かに類似品実績との比較では、妥当性を保っています。では、果たして過去の実績は正しかったのか。その疑問に答えることはできません。私は、バイヤーの前は営業をしていました。当時、売れ筋だった商品は、一番高く売れた時と一番安かった時で、同じ仕様で倍半分の開きがありました。あるお客様には1000円で売れているものが、別のお客様には500円でしか売れなかったのです。
倍半分の開きには何が作用するのか。一言で表現すれば、お客様の持つ情報量です。簡単に言えば、競合メーカーの価格情報であったり、商流であったりといった、ビジネスを進める上では非常に基本的な情報です。私がバイヤーになった時、法人同士としては非常に長いビジネスの関係が続いていました。しかし、私は新人で、ズブの素人です。私が営業だったら「値上げのチャンス」と捉えています。事実、そのように価格アップを目論んで成功した経験も有りました。私の経験が、自分の情報量不足によって、購入コストが上がる可能性が極めて大きいことを物語り、忌み嫌っていたのです。私のバイヤーでの最初の仕事は、徹底的な情報の収集でした。
上記の図は、実際にその当時からデータの蓄積を行なったものです。私の場合は、過去の業務経験がデータ収集へと強烈に駆り立てる動機へと繋がっていました。自分の担当製品を、他社と比較して倍のコストで購入するわけにはいかない。そんな思いが、データ収集の面倒さを超越していたのです。
以前のコストテーブル論で、過去のコストテーブルの有用性を述べました。このデータの蓄積の場面でも、過去のコストテーブルは役立ちます。それは、先人達が、どのようなデータを蓄積していたのか、その項目と当時の価格との関係性です。闇雲にあれもこれもとデータを収集していくほうが、後々のコストテーブルとしての活用の幅が広がるのですが、これは自分に割くことができる時間との兼ね合いで決定しても良い内容です。そのためには、紙が茶色く変色して、誇りまみれになっていようとも、先人達のコストテーブルは参照すべきなのです。
そして実際にデータを収集します。私がコストテーブルを作成し始めた当時、ちょうどIT技術の興隆期で、会社でもパソコンが一人一台となった時でした。私は、特に分析とかは意識せずに、担当製品毎にエクセルのファイルを作成し、時間を見つけては過去の購入品に関するデータを蓄積してゆきました。私のコストテーブル作成の歴史は、エクセルという表計算ソフトと共に歩んでいるのです。
コストに影響を与えるファクターと思しきデータを蓄積してゆきます。蓄積にも、エクセルには便利な機能が存在します。上記の表の一番上の行を見出しとして選択します。そしてメニューの
データ → フォーム
をクリックすることで、以下の通り入力フォームが作成されます。
・ データの並べ替えとフィルター
実際にデータを蓄積して、データ量が増えれば増えるほどに様々な分析が可能です。蓄積するデータをできるだけ多くする理由は、数値で表現されるデータもあれば、特性を示す可能性のあるデータもあって、どれがどのように価格に影響を与えるかが、作成当初は不明であるためです。例えば、電気に関係する製品であれば、電流値であったり電圧、周波数であったりといったものがキーファクターになる可能性が高くなります。中でも、電圧・周波数は、その数値によってグルーピングが可能になります。
先ほどのメニューのデータ→フィルター→オートフィルターを選択することで、一定の傾向や数値を持つデータをグルーピングして表示することが可能です。既に、価格に影響を及ぼすキーファクターを見いだして、分布図を作成し、近似曲線を表示させていれば、その分布図もグルーピングが反映されます。なんでもかんでも、あれもこれもと表示させていた分布図+近似曲線とは異なる傾向が見いだせるはずです。異なる傾向が見いだせなければ、コストに影響を与えるか可能性が低くなるというわけです。
また、同じような性格を持つモノ・サービスであるけれども、調達先が複数ある場合です。このようなケースで、私はすべて同じフォームにデータを蓄積してゆきました。同じ事業を継続する場合、サプライヤーは変更する可能性があっても、同じモノ・サービスの購入は継続するというのが理由です。サプライヤーを判別できる列を追加します。これによって、同じ性格を持つモノ・サービスについて、サプライヤー毎の特徴を推し量り、仮説を構築するヒントをいろいろと提供してくれるはずです。
A社とB社とC社を、あるキーファクターの示す数値が同じ時の価格を比較します。これ、法人が異なるので同じはずは無いんです。同じであった場合は、各社が談合しているか、バイヤー主導で協定価格としていたりする。しかし、真実は決して同じであるはずはない。理由は、モノであれば工場の立地場所が異なれば、発生する費用が異なるはずだし、各社原価計算方法も異なるはずです。材料の購入先だって異なるはずだし、購入方法も違います。もし、価格が同じであれば、それはそれで同じである理由を追及する必要があります。
そして異なっている場合、これもなぜ違うのかという理由を追及することが重要です。あるキーファクターの示す同質性が、別のファクターで異質を示している。そんな状態である理由を追及することが、コストテーブルを作成するメリットです。
次回は、その追及の方法について述べます。
<つづく>