30万円の有意義な使い方(牧野直哉)
先日、ある新聞が日本企業の業績について、こんな事を伝えていました。
・売上・利益とも新興国の占める頻度が高まっている
・新興国は、生産国でなく、市場としての存在感が生まれつつある
私は、同じ話を異なったトーンで聞いたことがあります。存在感が生まれつつあるのでなく、キッパリと市場として捉えた上での話を 、約半年前に聞くことができました。このメルマガでもレポートをしているISM総会での出来事です。実際に私は、中国に代表される新興国を、賃金の安い生産国としてでなく、市場としてこの半年間を過ごしてきたわけです。
ここで、ちょっと復習します。ISMについてです。
・Institute for Supply Managementの略称で、米サプライマネジメント協会と訳される(日本経済新聞社の翻訳)
・サプライマネジメントのプロフェッショナル集団
・レポート発行
・サプライマネジメント実行のサポート
・資格試験の実施(CPSM)
毎月初旬に、全米の調達・購買部門のマネージャーのアンケート結果にもとづいた指標がISM指数とよばれているものです。日本でも、発表された指数をベースに、いくつものレポートが公開されています。新聞紙上でも記事になっていますので、読者の皆さんも、知らないうちにニュースに触れているはず のものです。
そして現在、すでに来年5月にフロリダ州オーランドで開催される第96回ISM総会への参加申し込みが始まっています。年内に申し込むと、かなりオトクです。
Member Registration Fees | ||
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Best Value | Register by: 12/31/10 | $979 |
Early Bird | Register by: 2/15/11 | $1079 |
Regular | Register by: 4/15/11 | $1279 |
Late | Register by: 5/2/11 | $1349 |
Nonmember Registration Fees | ||
Best Value | Register by: 12/31/10 | $1229 |
Early Bird | Register by: 2/15/11 | $1329 |
Regular | Register by: 4/15/11 | $1629 |
Late | Register by: 5/2/11 | $1699 |
Memberとは、ISMの会員との意味です。年間US$100の会費です。非会員の参加費用と比べると、会員になった方が安価です。
上記の費用以外に、
・往復の航空券
・現地滞在費用
が必要になります。トータルで30万円/人くらいになる見通しです。
ここで問題になるのが、30万円を費やす価値があるかどうか、です。 私は、新興国を調達先としてでなく、マーケットとして捉える半年間を手に入れました。そして今でも引き続き、円高によって身近な新興国を「調達先」としか見ていないバイヤーもいることでしょう。私にとってこの半年間は、かけがえのない時間になっています。
そして今回は、以下のようなテーマが準備されています。
- Best Practices in Supply Management
- Developing and Leading Impactful Supply Chain Organizations
- Headwinds
- Logistics
- Services Procurement
- Manufacturing
- Risk Management
- Supplier Development and Relationship Management
- Talent Management
一番最初の「Best Practices in Supply Management」を除いたとしても、どんなバイヤーにもどこかしら興味が持てるテーマが一つくらいはあるのではないでしょうか。
開催される総会の内容は、概要以外日本ではほとんど入手することができません。また、同じような催しは日本でも行なわれてはいるものの、ISM総会のような 規模とバリエーションを兼ね備えてはいません。一口に調達・購買に関するといっても、その切り口やボリュームは、残念ながら日本国内にとどまっていては得ることができない内容ばかりです。世界で唯一のサプライヤーといっても過言ではないのです。
私事ですが、数年前に伝統的日本企業から、外資系企業へ転職しました。外資系企業は、それで一括りにできません。私は経験した外資系と日系の大きな違いを、
日系 :実績(経験)主義
外資系:戦略主義
という言葉で表しています。近年の市場環境は、どちらの主義に有利なのでしょう。私の身近で起こっている事の多くは、良いことも悪いことも過去の経験では推し量ることができません。そして、多くの日本人は「戦略」を求めています。我々バイヤーも同じです。場当たりでなく、戦略という意思を持つ。しかし、私に言わせれば、何もないところに戦略が生まれるものでもない。であれば、バイヤーであればなおさらどこかでネタを仕入れなきゃいけない。私には「戦略」に関する情報・ノウハウの 世界で唯一のサプライヤーが、ISM総会ということになるのです。
日本のISMを目指す購買ネットワーク会でも、出席者希望者をサポートするような試みが行なわれつつあります。このサポートを通じて参加した場合には、期間中寝食を共にする(部屋は別でしょうけど)生活となるでしょう。カンファレンスの合間に、バイヤーで行なわれる語らいも、この場でしか実現し得ないものなのです。
本メルマガの共著者である坂口さんが提唱した「LCB(Low Cost Buyer)」という言葉。私も初めて聞いたときには、将来的にはそうなるかもしれないが、近い未来ではないと考えていました。しかし、そんな淡い期待は裏切られてしまいそうです。欧米各国による自国通貨安政策が、思わぬ円高を呼んでいます。日本から流出するコストの発生源は、もはや製造現場だけではありません。比較的付加価値の低い事務職は、どんどんLCCへとその活動の拠点を移してゆくことでしょう。そんなバイヤーにとって決して楽でない将来にどのように備えましょうか。私は、具体的にどうすべきだ、との解決策を持ち合わせてはいません。だからもがく。もがいた結果の一つが、このISM総会への出席です。私の中で、LCB化を予防する手だてと、ISM総会で得られるあらゆる情報が繋がっているのです。
昨年より一人でも多くの同志と、同じ時間をオーランドで過ごせたら、と思っています。