ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

サプライヤーマネジメント原論 8~関係継続理論

前回までは、サプライヤーとの関係をどのように断絶するか、取引関係をやめるのかについてのお話でした。今回からは、サプライヤーマネジメントの本懐といえる、どのようにサプライヤーとの関係を継続するか、です。

最初に一つの問題提起です。なぜバイヤーはサプライヤーとの関係を継続しなければならないのでしょうか。ここにゴーイングコンサーンとの言葉を御紹介します。ゴーイングコンサーンとは、知恵蔵2010には、以下の通り掲載されています。

ゴーイング・コンサーンは「継続企業」と訳され、企業が継続して事業活動を行うことを意味する。2003年3月期決算より適用されることとなった監査基準の中で、継続企業の前提(すなわち当該企業の存続にかかわる情報)が開示され、かつ監査の対象となるに及んで、急速にクローズアップされた。この改訂により、有価証券報告書に継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン問題)に関する注記開示が行われ、継続企業の前提に重要な疑義が存在する場合にはその旨、あるいは重要な疑義を抱かせる事象・状況の内容などが記されることとなった。また、同時に監査人による監査にあたっても、継続企業の前提に関する経営者の判断が適切であるか否かについて検討しなくてはならない。ただし監査人は企業の存続可能性を判定したり保証するわけではなく、適切な開示が行われているかの判断をするに過ぎない。

(知恵蔵2010より引用)

上記は、監査基準によって、ゴーイングコンサーン(=継続企業)の前提において、重要な疑義が存在するときは、その旨を明らかにしなければならないというルールです。実際2008年3月期決算では、104社がこの規定に基づいて疑念の開示を行いました。

そしてもう一つ、そもそも企業組織は、株主・経営者・従業員・消費者などの参加者の行動によって維持され、事業を永続的に継続する、という考え方を表す言葉です。企業の存在意義、果たすべき社会的責任の一つに、その継続性があるわけです。バイヤーも事業運営の一翼を担う存在です。従い、バイヤーも、その存在意義故に、事業継続に貢献する必要があるということになります。

では、企業の継続にバイヤーがどのように貢献すればいいのでしょうか。前回までは、サプライヤーとの関係を断絶する方法について述べました。これも、自社の事業に貢献度合いの低いサプライヤーとの関係を断ち切って、より貢献度の高いサプライヤーを選択し、事業を継続するための一つの手段です。そして、自社の事業へ貢献度の高いサプライヤーを選択し続けることが、ゴーイングコンサーンという視点でのバイヤーの責務なのです。

次に、どのようにサプライヤーとの関係を続けるのか。私はその「続け方」について、二つの状態を考えています。

まず一つ目は、惰性による継続です。惰性とは、これまでの習慣や勢いです。これをサプライヤーとの関係に置き換えれば、過去、そして現在において重要なサプライヤーであった、あることになります。惰性と証されるサプライヤーとの継続関係がすべて悪いわけではありません。現時点で、自社の事業に大きな利益をもたらすモノ・サービスを提供して頂いているサプライヤーは、やはり重要です。しかし、そのまま何もしなければ、モノ・サービスの陳腐化と共に、サプライヤーとの関係も陳腐化してゆきます。この惰性での関係の怖いところは、例えば「自社にもたらす利益」という側面で見た場合、関係の陳腐化がなかなか現れない点、なかなかバイヤーとして実感できない点にあります。以下の図表をご覧ください。


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上記の図表は、プロダクトライフサイクルの各期の一般的な売上・利益を表しています。バイヤーとしては、導入期、成長期に、新規製品の試作、立ち上げといったプロセスを通じて、投資を行っています。そして、成熟期への移行に際しては、品質の確立、生産数量の増加による習熟効果で、コスト削減と安定供給という恩恵を受け取ることになります。

マーケティング側面では、成長期~成熟期の移行過程で、製品ライフを伸ばすべく、様々な製品ポジショニング維持の諸策が講じられます。そのような販売面でのアクションと同時に、コスト削減による低価格といった策が講じられて、製品ライフが伸びる可能性もあります。しかし、現在多くのモノ・サービスのライフサイクルの周期が短くなっているという問題もあります。従い、短いサイクルの中で、バイヤーとしてこれまで投下したリソースに対する恩恵をもっとも享受している時期にこそ、何らかの策をサプライヤーへ講じなければならないわけです。それは、日々の業務のなかでの、例えばコスト削減への取り組みと、同時進行で行わなければなりません。でなければ、利益は縮小してゆきます。そもそも品質、価格を含めて納入は安定しています。安定しているが故に、コミュニケーションが減少することで、バイヤーとサプライヤーの関係は、陳腐化せざるを得ないのです。

一つ目の問題点を踏まえた二つ目のサプライヤーとの関係の続け方、それはバイヤーが意図して、サプライヤーとの関係性の軸、注力のポイントを、一つ増やすことです。これは、以前この有料マガジンに掲載した「開発購買」の考え方にも通じるところがあります。ライフサイクルの上流工程である導入期の前のアクションです。ここで、以下の図表をご覧ください。

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上記の図表は、先に提示した図表に「開発期」を加えたものです。ライフサイクル理論とは、そもそもマーケティング戦略の中での戦術の決定に示唆を与えてくれるものです。導入期とは、その名の通り既にモノ・サービスが市場に投入された後を示しています。しかし、ライフサイクルそのものの短期化によって、あらゆる企業活動が上流へ、とその軸を移しています。そして、企業内で役割を分担している各部門の動きが、上流でかつ同期化することが求められているのです。

次回は、調達・購買部門が、製品ライフサイクルの上流工程で、何を求められ、どういった行動を起こすべきかについてです。

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