ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

新規サプライヤーを開拓する方法 4~バイヤーのプレゼンについて

前回は、次のポイントのお話をさせていただいた。

・ みずからサプライヤーへ出向くことの重要性

・ 新規サプライヤー開拓における効率の考え方について

・ サプライヤーを訪問してバイヤーがおこなうこと

・ バイヤーがサプライヤーにプレゼンをおこなう理由

(それぞれの内容は、バックナンバーをご参照ください。無料購読期間のお客様は、いましばらくお待ちください)

そして、今回はプレゼンテーションをどのようにおこなうか、についてである。プレゼンテーションを指南するHow to本とは少し違った、バイヤーが、サプライヤーを訪問しておこなうプレゼンテーションに特化した内容である。いわゆる一般的なプレゼンのセオリーとは異なっている部分もあるが、目的=新規サプライヤーでのプレゼンテーションへのフォーカスをおこなった故での違いなので、その辺はご容赦頂きたい。

● 事前準備

まず、これはマイクロソフトのパワーポイントというソフトを活用するのが一般的だ。前号にて述べたバイヤーがおこなうべきプレゼンのコンテンツ、バイヤーとしてサプライヤーの皆さんへ伝えるべき内容を、パワーポイントの各シートへあらかじめ明記しておくのである。

各シート作成時に注意する点は、次の3点である

1. 会社の概略は簡潔に

前号にても述べたが、インターネットのホームページや、会社案内に明記している内容は、できるだけ簡潔にとどめるべきである。これから取引を開始するのである。サプライヤーの側だって、バイヤー企業のイロハについては、調べ ることを前提にする。前号で示したようないろいろな調査機関の提示するレポートを利用する場合もあるだろう。そういった手間やコストを費やすことによってサプライヤー企業側でも得ることができる情報は、バイヤーからあえて詳細を提示する必要はない。 バイヤーとしてサプライヤーに指し示すことに価値のある情報に焦点を絞る必要があるのだ。

これは、こっち(=バイヤー)は買うのだから、バイヤー企業のことは調べるのがサプライヤーとして当たり前だという立場をとるものではない。バイヤーが訪問して、サプライヤー側の関係者に会うというのは 前号からの繰り返しになるがとっても貴重な場面である。そんな場面だからこそ、誰が伝えても変わることのない普遍的な情報よりも、今、進みつつあるビジネスにフォーカスした内容へ特化して説明をおこなった方が、よりバイヤー企業としての他社との差異を明確にできる可能性が高まる のだ。バイヤーも、他のバイヤー側企業と競争しているのである。幾ばくかでもサプライヤーよりも有利な取引条件を引き出し、自らのものとする取り組みが今、バイヤーへ求められていることを強く認識すべきなのである。

2. 自社の購買戦略を明確に

そして、自らがどのような購買戦略に基づいて取引をおこなっているのか。これから取引を開始するのかについては、時間を費やして丁寧に説明すべき内容である。ここで「購買戦略」という言葉を使ったが、 もし、所属部門や企業として明確な購買戦略を持たない場合にどうするか。それは、なぜ今日この場所に来ているのかを説明すればいい。どうして皆さん(=訪問先のサプライヤー)と取引を開始したいのか、である。

ここで非常に重要な事は、購買戦略であれ、なぜここに来ているのかであれ、バイヤーとして訪問先であるサプライヤーのどこに魅力を感じているのかを伝えることである。単純に言えば、サプライヤーを嫌味にならない程度、そして相手を良い気分にさせる程に褒めるのである。その褒める内容と、バイヤー企業側の購買戦略と合致しているということを伝えるのである。

3. 具体的な案件の背景

最後に、実際に見積依頼を行った案件に関する背景である。どんなマーケットに、そのような製品を供給するための見積依頼であるのかを明確にする必要がある。ここでのポイントは、バイヤー企業側にとっての顧客をサプライヤーにも意識してもらい、一緒に攻略する共同戦線を組むバイヤー側企業の姿勢を示すことである。

以上の資料を、簡潔にパワーポイントの資料5枚程度にまとめておく。バイヤーが訪問して以降にサプライヤーにおこなってほしいアクションがあれば、そのサマリーを含めても6枚である。一枚に2~3分の実際の説明時間を費やすことを想定して、15~18分程度である。

● 訪問当日、実際のプレゼンテーション

事前準備をおこなった内容を、サプライヤーの皆さんへどのようにプレゼンするのか、である。これは、サプライヤー側で、プロジェクターが有れば何の問題もなく、パソコンに接続してすぐにでも説明を始めることができる。プロジェクターを接続して、パソコンからプロジェクターへデータを送る方法さえ知っていれば、あとはプレゼンをおこなうのみである。

ここで問題となるのは、プロジェクターがない場合の対応である。一番簡単な対応は、あらかじめプレゼンする内容をプリントアウトしておいて配布する方法だ。資料に沿ってバイヤーが話をすればよい。

そして、一般的なプレゼンテーションのセオリーからすれば、話をする内容は覚えている必要がある。私は、バイヤーがサプライヤーに対しておこなうプレゼンに限って言えば、すべてを記憶して、そらんじておこなう必要はないと考える。理由としては、画面を見つつもアイコンタクトができる程度の人間へのプレゼンであり、後で意義を述べるが、プレゼンをするという事実で十二分に意義があるからである。

バイヤーの話が終了した後は、内容に関する質問を受ける。そして、受けた質問には、誠意を持って回答する。当日に回答できない質問であれば、後日必ず回答する。バイヤーがおこなったプレゼンに対する反応=質問だ。質問へ回答することで双方向が確立される。これがバイヤーのおこなうプレゼンの大きなねらいの一つでもあるのである。

● バイヤーがプレゼンテーションをおこなう意義

先日、関西と関東、2つの会場でおこなわれた購買ネットワーク会。私は関東会場に出席していた。今回もグループで討議を行った。そして討議結果の発表を、グループの中で購買ネットワーク会への出席回数の一番少ない人間がおこなった。自然と比較的お若い方が発表をしていたが、発表者の皆さんは、ほんとうにプレゼンが素晴らしかった。そういう意味では、これからお話しする意義も、これからどんどん薄れ行くのかもしれない。

私がバイヤーのおこなうプレゼンに意義を感じるのは、バイヤーがプレゼンをおこなうことがあまり一般的でないことに尽きる。私自身、法人向けの大手から中小企業を相手にした営業をおこなってきた経験を持っているが、バイヤー自ら上記に述べたようなプレゼンをおこなってもらった経験はゼロである。別に、パソコンとプロジェクターを使うまでもなく、これまでに述べた内容を積極的に語ったバイヤーは皆無であった。そのような経験と、実際にいろいろなサプライヤーに対して、いろいろな形態でプレゼンをおこなってきた経験から言えば、 プレゼンをおこなうことが、サプライヤーに対して数多いバイヤーの中でも際だった印象を与えることができるのである。

我々バイヤーが意識しなければならないことは、サプライヤーとはバイヤーを見極めるプロであるとの存在であるという真実である。今回の新規サプライヤーを開拓する方法の中で、一貫して述べてきた内容の根幹、それは、バイヤーだって当たり前だが選ばれる存在であるということだ。今現在は景気も低迷し、報道では景気は上向いているとの内容も見かけるが、実態としては、いわゆるリーマンショックの前の状態には遠く及ばない状態だ。そういう意味では、現在はバイヤー優位の状況であるといえる。

しかし、ジリジリと上昇する原材料価格であったり、新興国の潜在的な購買力であったりといったことを考えるとき、売り手優位へと状況が変わることを常に想定しなければならない環境にあることは、バイヤーとして忘れてはならない。そして、実際今回のお話で述べたようなプレゼンを実際作ってみてほしい。内容的にまとめるのが大変であれば、今まで自社の実像をサプライヤーに伝えることを怠っていたことに他ならない。今の日本の売り手、買い手に対する一般的な認識をベースにすれば、相手にされないバイヤーほど惨めな存在はない。もちろん、会社としての購買力とは、バイヤーだけでどうなるものでもない。購買力とは、会社の総合力がもっとも現れる。しかし、サプライヤーとの良好なリレーションの構築には、バイヤーから受ける第一印象であり、バイヤーの一挙手一投足が大きな影響を及ぼすのである。

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