調達・購買の実践とは、感動購買のことだ

「終わった!!」

ある日の深夜。誰もいなくなったオフィスで一人、遠い国からの電話をひたすら待ち続けているバイヤー。

たまっていた書類をこなし、何もすることがなくなったあと、指で机を何回も叩きながら、恋人を待つときのもどかしい時間のように、ただ不安な思いをめぐらせている。

そのとき、一本の電話が鳴り響く。

バイヤーが急いでとると、早口にまくし立てる声。バイヤーにとっては、慣れない英語。

なんとか相手の言っていることを理解しようと必死になる。

「オーケー。あなたからリクエストされた価格で合意しましょう」

そこだけは、なんとか聞き取れたバイヤー。

すぐに、見積りをFAXするように頼むバイヤー。

すると、無事に指定金額の記されたFAXが送られてきた。

そのバイヤーは、そのとき1千万円ほどの商談を担当していた。

新入社員に毛が生えた程度の人間にとって、1千万円とは小さな額じゃない。

これまでの日本の仕入先をやめ、海外の仕入先を探していたバイヤーは、いくつかの候補に出会う。そして、幾度かの交渉や見積りを経て、最後のツメを行っている最中だった。

こちらから、最終価格条件を提示し、あとは相手からの回答を待つだけの状況。

そしてバイヤーは、そのFAXで、日本円にして約5百万円の価格を入手することになる。

「半額にできたぞ!!」

・・・・

そのバイヤーは私だった。

私は、それまで約1千万円ほどで取引していたものを、実に半額で入手することができた。

しかも、自分の力で。

大袈裟にいえば、やっと自分が何かを成し遂げた、成功した、という思いが沸き起こったのだった。

この一本の電話を受け取ったとき、私は調達・購買というものの魅力にとりつかれはじめていた。

そして同時に、なぜ多くの企業は、この調達・購買に注目しないのか、なぜ調達・購買担当者は注目されないのか。その疑問が日に日に増していったのは必然だった。

いたるところで繰り返し書いた通り、その疑問と格闘しながら、それ以降、私は様々な仕入れ手法を学び、かつ様々な落とし穴にも直面することになる。

思えば、その過程を通じて学んだことばかりだ。

トラブルばかりで、私はいつも仕入先に出向いており、そのたびに膨大なレポートや出張報告を書かされ、気づけばいつしか短時間で大量の文章を書けるようになった。

製品を発注したかと思えば、納期に全く間に合わないものばかり。七転八倒の結果、自分の仕事は絶対に遅延させないような性格になってしまった。

・・・・

そうやって格闘していた頃。

本屋に行けば営業・販売に関する本はたくさん売っていた。

しかし、調達・購買に関する本はあまり置いていなかった。利益率向上の起爆剤を手にしている調達・購買の世界は、裏方として佇んでいるだけだったのだ。

その一方で、一部の先端企業によって調達・購買は研究され、進化してきているということも知った。

調達・購買の研究が最も進んでいるのはアメリカで、なんと調達・購買の専門雑誌が刊行されていたり、大学で仕入れを専門とする学部があったり、調達・購買プロフェッショナルとしての資格試験もあったりした。

そのアメリカを中心とした仕入れ先進国から輸入する形で、新たな取り組みが開始されてきたのだ。

そこから幾星霜。

日本にも調達・購買の本があふれ出した。内容もかなり多岐にわたっている。私の知人もいくつか出している。

本の普及が2007年だとしたら、2008年は何がやってくるというのか。

・・・・

この前、面白い話を聞いた。

プロのバイヤーが、サプライヤーを選定するときには色々と考慮する。これまでの品質状況だとか、納入遅延日数だとか、コスト低減率の推移だとか、もろもろだ。

しかし、その結果は? もしかして、プロが色々考えて出した結果よりも、コンピュータが結果を出した方が「まし」なのではないか。

そう思った一部の学者たちは、これまでのソーシングの履歴を洗い出し、回帰分析にかけて、一つの式を完成させた。

その式を使ってサプライヤーを選定した場合と、プロの購買部員がサプライヤーを選定した場合。

残念ながら、学者たちが回帰分析を使ってサプライヤー選定をした方が、品質や納期、満足度などのほぼ全ての指標で優れていた。プロの購買部員の目で選別するよりも。

これは示唆的である。

つまり、調達・購買に注目が集まった後は、その調達・購買の「脱職人化」が始まるのではないか、と。

この製品を、この地域で、この数量で、最も安く提供できるのはどのサプライヤーか。そして、どのような購入条件のときに、最も値下がりするのか。

などの情報が日々蓄積されていけば、プロのバイヤーなど不要になる。

機械が人間を代替するとは、なかなか素直に受け入れられる話ではない。ただ、勘などというものに頼っていた調達・購買業務を大きく変えていく可能性を秘めている。

これまで、売り手は消費者行動を莫大なデータで分析し、販売戦略を決定してきた。

これからは、売り手の行動や属性を、同じく莫大なデータで分析し、調達・購買に活かす試みが開始されようとしているのだ。

2008年はそんな兆しの年になる、と思う。

「バイヤーは、自分の存在を否定しろ!」

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