バイヤーは、いつだってドリーミィ

「こっちで働いてみないか?」

突然、ヘッドハントされるのは悪い気持ちじゃない。

しかも、ヘッドハントされてくれた人が海外の人であればなおさらだ。

そのバイヤーは、海外の仕事をしていた。

海外の仕事、といってもたいしたことではない(というか誰の仕事だって突き詰めればたいしたことじゃない)。

海外の工場の調達先を調べる。そして、マトリクス化する。購入金額をまとめ、どのようなコスト低減のチャンスがあるかをまとめる。

海外調達とか現地調達、とかいうけれど、多くの企業では、そもそも調達品の注文先すら正確には情報を持っていない。

だから、そのバイヤーは海外調達うんぬんを言う前に、現状のデータを集めた。

集める。集める。そして、海外から現地で働くバイヤーたちが来日したときに、現状概要を説明する。

彼らには、コスト低減の目標がある。来期までには何パーセントコスト低減しなければいけない、という種類のものだ。

現地のバイヤーが、日本企業の海外子会社から調達している場合は非常に多い。そういう場合は、現地のバイヤーだけが頑張っても日本本社が価格決定権を持っているときがあり、なかなか上手くいかない。

そのバイヤーは日ごろから、日本で働いている社員たちが、現地法人のコスト低減に非協力的な様子を多く見てきた(「自分の仕事の範囲ではない」というのが彼らの流儀だ)。

自分の成績にはならなくとも、コストが下がるのであれば、日本のバイヤーがサプライヤーの日本本社に交渉しても良いではないか。

そう考えたバイヤーは、自ら進んで日本本社との交渉を買って出る。

日々海外法人のメンバーとやり取りするメール。そして、毎日の仕事の多くの部分を自分と「関係のない」交渉に費やす。

そして、そのバイヤーは、ある日現地法人のマネージャーから一通のメールをもらう。

「いつもありがとう。どうせなら、こっちで働いてみないか?」

・・・・

そのバイヤーは私だった。

仕事を自ら増やしていると、色々な人に出会う。

海外のバイヤーに協力していると、日本に彼らが来たときにチョコレートをもらうこともでき(たったそれだけ?)、私の英語の表現の誤りを訂正してくれ(間違えるなよ)、夜にはビールをおごってくれ(太るぞ)、帰り際にはなぜか抱きしめられる(気持ち悪い)、という経験ができた。

それはいい。

ヘッドハントの話だった。

実は様々な理由で、私は上記の話に乗ることはなかったけれど、あるとき海外のバイヤーの給料が予想以上に高いことを知って後悔したことはある。

たかが、日本の狭い狭い会社の中で働いているだけで、誰かがその働きっぷりを見てくれているというのは、非常に嬉しいことではあった。

世界に出て行くことだけが正解とは言わないけれど、世界に少しでも認められたいということが人間の原始欲求である。

どうすれば、社会に、世界に認められるのか。

小さな組織の中で、そんなことを、ずっと私は考えてきた。

そして、分かったことがある。

そんな疑問の答えはない。ただただ、目の前のことを粛々とやるだけだ、という最もつまらない結論に帰着する。

目の前のことをやっていれば、いつしか大きな世界への扉が開く、という、どうしようもなく凡庸な、それでいて確信が私にはある。

・・・・

転職も良い。

ここ数年、色々なバイヤーと出会うことが多いけれど、会社に対して不満を持っている人が多い。

そんなに不満ならば、「すぐに辞めれば良い」などと私などは思うが、そこはぐちゃぐちゃ愚にもつかない言い訳があるらしく、そういう人はなかなか行動に移そうとしない。

きっと、勇気と行動力がないのだと思う。ああ、こういう人たちばかりだから、旧来の取引先との関係も断ち切れないのだな、とも思う。

言い過ぎた。

転職するならば、以前の仕事の業績は忘れて、初心に戻って仕事にあたる必要がある。かといって、業績をアピールすることなしには転職面接で成功することもない。

昔の会社の輝かしい成果は袋に包んで燃えるゴミの日に出して、それでいて、その捨てたゴミの重要性を説明するという、どこだか矛盾した、それでいて矛盾していることを感じさせない高度な演技力が要求される。

ただ、どちらかと言えば昔の思い出はウェットだから、燃えないゴミの日か。

そういえば、子供の頃、「燃えないゴミの日」の「燃えない」が「日」にかかる形容詞だと思っていた。日によって回収に燃えることも、燃えないこともあるとは、なんと人間的な仕事だろうか、と感心したことを私は微笑ましい子供時代の一ページとして記憶している。

燃えるゴミも燃えないゴミも、購買コストは変わらないが、廃棄コストは異なる。これは、トータルコストに関わる極めて調達的な問題だ、と私は考える。

何を書いているのだ。

目の前の仕事と世界への扉の話だ。

だから(なぜ「だから」?)、私は仕事を移るならば、相手から誘ってくれるときが良いと思っている。

ただし、それも目の前の仕事に全力投球してから、の話だ。

それでも、自分の現在の仕事に突破口を見出せなければ、仕事をさっさと切り替えるのがよろしい。

・・・・

バイヤーは一人一人が個人会社として、すなわち「i-mode」ならぬ「i-購買」として独立するべきときが来ている。

それが、「最も出世できない職業」としてのバイヤーの、「最も転職できそうにない職業」としてのバイヤーの逆襲劇の始まりでもある。

これは単なるレトリックではない。

見果てぬ夢の断片と、世界に飛び立つ助走と。それは、バイヤーみなが一人の職業人としての自覚が必要になる。

あるとき、バイヤーたちは世界に飛び立つ。

それが、いかにドリーミィでも。

それが、たとえファンタジィでも。

「バイヤーは、i-購買を目指せ!!」

 

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