エコロジィは、いつだってミステリィ
「あんなの捨てますよ!」
世の中の常識を疑ってみることは、意味のないことじゃない。
そのバイヤーは、あるサプライヤー工場の見学に来ていた。
生産現場を一通り観察し、工場関係者と談話も済ませた。次の仕事の打ち合わせも済ませた。
「今日はありがとうございました」と言って工場から出ようとした瞬間に、工場脇に置かれた大量の製品の山が目に入る。
在庫が多い工場だった、という話を期待した人。残念。
そうではない。
バイヤーは、つい訊いてしまった。「あの在庫は何ですか?もしかすると、中間在庫ですか?」と。
すると、その工場長は「いえ、客先からリサイクルということで返却された製品です」と言う。
バイヤーは、「なるほど、家電リサイクル法の施行後は、消費者の意識が高まっているんですね」と感想を漏らす。「だけど、あれだけリサイクルしようと思ったら、処理が大変でしょう」とも。
すると、その工場長は、「いえ、実態はそんなことないです」と言う。
バイヤーは「リサイクルの技術が高まったのですか?」と質問すると、工場長からは意外な答えが返ってくる。
「いえ、そもそもリサイクルせずに、全て捨てちゃいますから」と。
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そのバイヤーは私だった。
世の中でこれほど環境対応の要求が高まったときはない。
CO2削減をスローガンに、CO2の排出量を取引先の選定基準として持っているバイヤー企業も多い。
某合衆国の大統領選に敗れた、元副大統領のアジテーションもあって、どうやらCO2を出しまくる企業は世間の敵でしかないようだ。
いや、私だってCO2を出しまくる企業が良いといっているわけじゃない。
私が言いたいのは、「リサイクル」や「CO2削減」というスローガンが一人歩きしてしまっている現状についてだ。
前述の工場長は、「リサイクルで戻ってきた製品をリサイクルすることなく捨てている」と言った(これから、その根拠を示すが、この工場の名前を語ることはできない。どんなに正しくても「リサイクル教」の人にとっては、リサイクルしない人たちは異教徒で断罪する対象でしかないからだ。つまり、何を言っても納得してくれない)。
その工場長は、「これらを本当にリサイクルしたら、新しく生産するよりも倍以上のCO2が排出され、コストも倍かかります」と言った。以前はやっていたようだから、おそらく本当だろう。
とある別の工場でも訊いてみたが、同じくリサイクルしていないと言う。
また、排泄物をゼロにしているという完全循環型工場の方に聞いてみたが、排泄物をゼロにするためにこれまで以上の電力を使いまくっているという。
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あまり適当なことを書くとお叱りを免れないが、おそらくリサイクルで返却された大部分の製品が実はそのまま捨てられているのではないか、という予想を私は持っている。
例えば家電製品。家電製品をリサイクルし、再利用できる箇所を抽出していく作業はどう考えたってコストがかかりすぎる。
これらは本当に分解され、新しく生産するよりもCO2も少なく、かつ低コストで再利用されているのだろうか。
答えは想像していただくしかない(私はある確信を持っているが、書くと支障がある)。
ちなみに、廃棄材からレアメタルを再利用するビジネスがあると聞くが、どのような収益構造なのかぜひ知りたいものだ(誰か教えて)。
ときに「電気代しかかからない」と言う人がいるが、「電気代の上昇」とはすなわち発電所の利用が増えるということであり、それがどの程度トータルで環境に影響を与えているかまでを説明してくれる人はなかなかいない。
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こう書くと「お前は大気汚染が進んだ中国を擁護する気か」と言う人がいる。
いやだから、大気汚染と、今盛んに言われているCO2削減を同じにしないでほしい。
大気汚染は誰だって気持ちのいいものじゃない。
だけど、環境対応といっても、何でもリサイクルするのが良いはずはないと言っているだけだ。
バイヤーがサプライヤーに求めているのは、見た目だけの環境対応度合いか、それとも見た目だけのCO2削減か。それとも見た目だけのリサイクル率の向上か。
調達方針として、その実際を考慮するときがきっとやって来る。
お題目だけを叫ぶのであれば、どうぞご自由に。
ただし、逆説的に。
真のエコロジストであるからこそ、サプライヤーにリサイクルを求めない、という立場もありうるのである。
ただ単に会社方針だからといって従うのではなく、自分のやっていることが本当に役立っているかを一度立ち止まって考えてみた方が良い。
それがいかに世間の常識と異なっても。
そして、それがいかにミステリィでも。
「バイヤーは、環境問題の常識を疑え!」