お盆休み後の素敵なファンタジィ

「こんな仕事やめてやりたいよ!!」

常に「忙しい」と言っている人からそんなことを聞かされると、誰だってウンザリしてしまう。

そのバイヤーは、毎週月曜日になると、先輩バイヤーから、そう聞くのが習慣となっていた。

「忙しいなあ。もう月曜日になっちゃったよ。みんな俺に頼ってくるし。こんな仕事やめてやりたいよ!」。

「そんなに嫌ならば、なぜ早く辞めないのか」とそのバイヤーは思ったものの、口にしない。

月曜日ごとにそんなことを聞かされる相手の気持ちを考えることができないだけで、その人間は社会人として失格だが、それも言えなかった。

「忙しい」という言葉を連発するのは、「自分が無能である」と言っていることとイコールであるが、まあそれも言うまい。

何がそんなに忙しいというのか。

その先輩バイヤーは言う。「今日は深夜からテレビ会議で、現地とミーティングがあるんだよ」と。

「現地」とは海外調達先の相手のことだった。

なんでも、海外調達は、「密なコミュニケーションが不可欠」ということだった。

「じゃあ、回数減らせばいいじゃないですか」と、そのバイヤーは言う。

すると、その先輩バイヤーは即答する。

「わかってないなあ。それじゃダメなんだよ。現地とはちゃんとやらなきゃ・・・。ああ、忙しいなあ。こんな仕事やめてやりたいよ!」

・・・・

そのバイヤーは私だった。

海外とやり取りをしている人たちから良く聞く「今日は深夜から現地とミーティングがあるんで」というセリフの意味が分からなかった。

いや、もちろん文字通りの意味は分かる。

時差があるために、こちらの深夜(むこうの朝)に電話会議かテレビ会議を行うという意味だろう。

だが、私が、「分からない」と書いた内容は二つのことだ。

(1) なぜ電話会議・テレビ会議を毎回行なう必要があるのか

(2) なぜそう語る人の顔は、「大変だ」と言いながらも嬉しそうにしているのか

おそらくこの二つは同じことを指しているのだろうと私は思い当たった。

それは、「英語で現地とやりあっている自分の姿を自己陶酔している」ということではないか。

大体、これほど英語が一般的になってきた昨今、なぜ英語で仕事をしているということを「忙しい」ということにくっつけて自慢する必要があるのか。

おそらく、こういう人を「田舎紳士」と呼ぶのだろう。

またしても、皮肉が過ぎてしまったかもしれない。

・・・・

意見が分かれるだろうが、相手もメールにしっかり反応してくれる人であれば、電話会議やテレビ会議の必要はない。

メールの方がずっと効率的だし、記録も残る。

確かに最初の会議くらいは相手の声を聞きながらやっても良いかもしれない。

だけど、なぜこの時代にわざわざ毎回電話会議やテレビ会議などする必要があるのか。

第一、費用がもったいない。

それが虚栄心を満たすために使われているのだとしたら、あまりに高い代償ではないか。

その人のコスト感覚は一体どうなっているのだ、バイヤーのくせに、などと私は思う。

私はほぼ毎日海外とやりとりしているが、メールだけで特に支障に感じたことはない。外国から人が来たときだけ、直接話す。通訳などなくても問題ない。

大して上手でない英語で、「イエース」なんてのを話しているバイヤーの姿を見ると、本当の阿呆なのだろうと思ってしまう。

・・・・

いや、自分の英語力をアップさせるために意図的にやっているのであれば、まだ戦略的なので許してあげても良い(偉そう)。

だけど、そういう人は、そこまで考えているわけでもなく、英語を周囲に自慢したいくせに、実はたいしたことがなく、相手にとってもいい迷惑だと思うが、いかがか。

ツールを自己目的化してしまうことは、常にむなしい。

おそらく、今バイヤーが考えるべきことは、「自分の業務の時間をいかに減らすか」ということに他ならない。

企業が使っている最大のコストは「人と人が会う」機会費用だ。

それに最も携わるバイヤーが、むしろ対面したり、直接会話したりすることに価値を見出すことは、時代遅れ以外の何者でもない。

何より、「忙しい」と言いふらして周囲を不快にさせないことが最も大切だ、と私は思う。

「バイヤーは、死ぬほどヒマだと、自慢しろ!」

 

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