「一流の調達担当者」と「二流の調達担当者」をわけるもの(坂口孝則)
以前、ある有名な会計士さんの話をきいて衝撃を受けました。「働き過ぎるのは怠惰である」というのです。働き過ぎるのに、それが怠けている? 逆じゃないのか、と。
料理人には、一日のおわりに必ず包丁を研ぐ時間が必要らしいのです。それは弟子にやらせてはいけません。自ら料理を振り返りながら、ただただ包丁を研ぐのです。このプロセス、すなわち振り返る時間がなければならないのです。休みのように見える、自己を振り返る時間が必要なのです。料理を続けていたらけっして成長することはありません。必ず、さきほどの仕事を自省する時間が必要なのです。
もう一つ、次は笑い話があります。あるひとが夜中にお金を落としました。そして、薄明かりのなか必死に探していました。すると寄ってきたひとが「ここらへんで落としたのは、たしかですか」と訊きました。すると、そのひとは「いや、ほんとうはもっと奥で落としたと思うけれど、あっちは真っ暗で探せないんだ」といいました。これは笑い話ですが、笑えるでしょうか。私は、多くのビジネスパーソンや、組織で、こんなことばっかりやっている気がします。
つまり、それは「やるべきこと」ではなく、「やりやすいところ」にのみ時間を使うのです。
自分が落としていない地点で財布を探すことは、すなわち「見たくない現実を見ていない」ことです。ほんらいは「見たくない現実を見て」こそ、なんらかの失敗があります。なんらかの落ち込みがあります。なんらかの取り戻しのつかない現実に気づきます。もちろん、それらを味わいたくないでしょうが、味わなければ、ずっと進めないままです。しかし多くのひとは嫌な思いをしたくないために、ずっと進化せずに同じ場所に留まりつづけます。そして進化がないまま時間だけが経っていきます。
「一流の調達担当者」と「二流の調達担当者」をわけるものがあるとすれば、それは「見たくないものをちゃんと見る力」です。これに複雑なロジックとかスキームとかソフトウェアとか手法などは不要です。ただただ、自分のいたらぬところを見る勇気です。そして、粛々と改善しようとする意志力です。
このところ、一瞬で成果が出ないアドバイスはまったく人気がありません。でも、真実はコツコツやり続けなければいかなる進化もありません。そして、自分がいたらぬところをちゃんと把握して、ノートに書き出して、それをずっと見続けるだけです。私の師匠は「1万時間やりつづければ、プロになれる」といいました。私は、この言葉を信じて、何事もコツコツとやっています。