【提案】調達部門は設計部門を訴訟すればいい(坂口孝則)

私のような調達コンサルタントをしていると、ときどき実務家の調達担当者と面白い会話をします。

「あるサプライヤのトップと、こちらのトップの仲が良く、そのサプライヤを外すことができません。でも、そのサプライヤは、なかなか価格交渉に応じません」
「何が問題なのですか?」
「いや、そりゃ、コスト削減をしろっていわれているのに、コスト削減ができないことが問題なんです」
「じゃあ、そのサプライヤを外せばいいじゃないですか」
「しかし、社長と関係があるので、外せないんです」
「社長が外すな、というのですか」
「ええ、そこまで直接的ではありませんが、そうです」
「コスト削減しなければならない、というのは、経営方針ですか」
「え。もちろん、そうです。それを果たすが調達の役割です」

あるいは、違う企業の調達担当者との会話が以下です。

「設計者がこちらの意見を聞かずに、勝手にサプライヤを決めます」
「何が悪いんですか?」
「はい。そのサプライヤは高くて、コスト削減ができません」
「高いのは明らかですか」
「そうなんです。しかし、なんだかんだいって既存サプライヤを替えてくれません」
「安価なサプライヤに替える、あるいは、集約するというのは全社方針ですか」
「それはそうです。だって対外的にも発表しています」

この二例は、あくまで例です。よく類似の会話を交わします。

原理原則に戻ってみましょう。もともと企業は株主がいて、その株主が経営陣を指名し、その運営を任せます。そして社長などの経営陣は、社員を採用したり、執行役員を指名したりして、株主の目標に近づけるよう努力します。達しなかったら終わりです。経営陣は経営方針を株主総会で承認してもらいます。

この原理原則に戻ると、上記の会話が奇妙な気がします。

まず一例目。株主から承認された経営方針を、社長自らが破っているわけです。それは、堂々と、株主にたいして伝えるべきです。告げ口ではありません。株主の意向に反しているわけですから、むしろしっかり伝える義務があるでしょう。

二例目も同様です。さらに、もし調達部員のみなさんが社員持ち株制度で、株主になっているのであれば、株主代表訴訟を検討してください。だって、株主が会社の持ち主であり、特定の部門が、全社方針に従ってないわけでしょう? すくなくとも、日々の対話のなかで、全社方針に反しているのであれば、メモをしっかりとって証拠付けておく必要はあるでしょう。

これは冗談ではありません。ほんとうに訴訟したらどうでしょうか。社員には忠実義務があるのですから、一度、ほんとうに訴訟したら、それ以降は、調達部門を蔑ろにはしないと思います。

私は、この文章を本気で書いています。だから、「冗談ではありません」と書きました。しかし、逆説的な意味も含みます。

そもそも、ほんとうに、設計者は調達部門のいうことを聞いていませんか? ちゃんとした情報を与えていないだけではないでしょうか。それに、ほんとうに、コスト削減効果がありますか? 試験費用やその他の付帯費用を考えると、コストメリットなんてないんじゃないでしょうか? そのサプライヤは技術的に大丈夫ですか。品質は? 体制は? 実際、設計者の悪口をいっているだけで、そこまで調べ尽くしたと言い切れますか?

つまり、訴訟で勝てるくらいの自信あるでしょうか。

そこまでいうと、多くの調達担当者は、言葉を詰まらせます。もし、そこで言葉が詰まらず、ほんとうに設計者が悪質だったら、ほんとうに訴訟したらどうでしょう。

挑発的調達論でした。

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