ミスターFの陰謀(少量生産時代のコスト削減)(坂口孝則)

やや個人的な話を二つします。私は、ときに調達・購買関連の集合研修を行います。研修の講師です。そこで、クライアントと話す際に、話題になるのは、「一般的な調達・購買教材と、実際の業務が違う」ことです。つまり、自動車メーカーなどの大量生産を行っている企業であればピッタリの内容であっても、個別生産の企業にとっては、なかなか一般的な教材の内容はそぐわないのです。

もちろん、できるだけ私もカスタマイズし対応します。ただ、私も経験があるので、よくわかります。1万台生産する場合と、一品を生産する場合とは、かなり異なります。

さて、もう一つ。私は、なんだかんだ調達・購買業務を極めようと試行錯誤してきました。とはいえ、何人かの師匠がいなければ、スキルアップはできませんでした。私には、F氏という師匠がいます。このことはさまざまなところで書きましたので繰り返しません。私は異常なメモ魔ですから、人びとから得た情報やインスピレーションを常に記しています。

ミスターFは、さまざまな教えを私に与えてくれました。この前、見返しておりましたら、少量生産時代に合致するサプライヤ指導法を教えてくれていました。それをこれから書いておきます。

ずばり書きます。「サイクルタイムではなく、リードタイムを重視せよ」「目安となるリードタイムは、各サイクルタイム合計の5倍である」というものです。ね、深いでしょう。量産のライン生産ではないわけですから、「サイクルタイムではなく、リードタイムを重視せよ」とはその通りです。サイクルタイムとは、一つひとつの加工プロセスにかかる時間です。厳密な定義ではありませんが、そう考えてください。リードタイムとは、工場への材料搬入から、完成品出荷までのトータル時間です。

一つひとつの加工プロセスが多少は遅くなっても、全体のリードタイムが短ければ問題ありません。逆もしかりです。全体のリードタイムが長ければ、一つひとつの加工時間が短くても意味が無いのです。これは、常に局地的にモノを考えてしまう調達・購買担当者は意識すべきでしょう。

そして、「目安となるリードタイムは、各サイクルタイム合計の5倍である」。これは、定量的というよりも、経験則的に出た発言のはずです。これはけっこう厳しい、そして愛情のある指標です。あなたが、サプライヤに行って調べてみましょう。もちろん、大量生産工場であれば、サイクルタイム合計は、そのままリードタイムに近いはずです。しかし、個別生産企業であれば、段取り替えもありますし、ロット分の作業もありますから、なかなか難しいでしょう。

ただ、一つの、そして明確な指標になると思いませんか。それに、業種や業態ごとに違うでしょうが、それならばあなたのサプライヤのスタンダード倍数を調べればいいのです。それを基準としてベンチマークが可能でしょう。サプライヤへの指導の一端となりますし、なによりサプライヤが驚くはずです。

そして、優秀なサプライヤであれば、個別生産にもかかわらず、リードタイムは、各サイクルタイム合計の3倍になるはずです。

これがなぜ「陰謀」なのでしょうか。ええ、こうやって仮説をぶつけては、そこから部下が試行錯誤して成長するのを楽しんでいたんですよ。教育の陰謀であり、かつ魅力的な陰謀だ、と私は思いました。この陰謀に乗ってくれるなら、ぜひ、みなさんも、「サイクルタイムではなく、リードタイムを重視せよ」「目安となるリードタイムは、各サイクルタイム合計の5倍である」という基準を覚えてください。

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