コンサル「S」が調達実務を10年遅らせた(坂口孝則)

まずお断りしておきますと、このS氏とは、某社で聞いた話です。某社では、口先だけの社員を「コンサル」といって揶揄するようです。そして、カタカナを多用して、けっきょく実行に移さない社員のことも「コンサル」と揶揄するようです。そのなかでもっとも酷いのがS氏で、「Sのようなことを言うな」というフレーズが多用されていました。

だからこのS氏は、ほんとうのコンサルタントではありません。しかし、妙なほど示唆的だったので、私が考えたことを共有しておきます。

ここ10年にわたって、さまざまなカタカナ調達用語が登場してきました。ソーシングなんたらに、カテゴリなんたら、サプライヤリレーションシップなんたらに、パーチェシングなんたら、バリューチェーンなんたら……もう覚えきれないほどです。これらのキレイな理屈は、現実がキレイなことを前提としています。しかし、実際に問題なのは、他部門が強すぎて調達の考え方を社内にいっさい伝達できず、調達部門は奴隷のようになっている点ではないでしょうか。

私はその想いから、本音をぶちまけた『調達力・購買力の基礎を身につける本』を書きました。私にとって、S氏はけっして他人の問題ではなかったのです。

おなじく調達組織の問題はなんでしょうか。人材のスキル? ほんとうにそんなことが問題なのでしょうか。ほんとうの問題は、会議の場で怒鳴るだけの非論理なクソジジイと、若手の話をとにかく経験から否定したがる中年のおっさんと、アホのような言い訳ばかりが得意な若手と、サポートしてくれりゃいいのに自分の仕事の遅さを棚にあげて文句ばかりいう女性事務員ではないのでしょうか。

彼らにたいする根回しに時間ばかりがとられて崇高な目的を果たせないことが問題ではないでしょうか。実は、彼らを叱り飛ばす、高貴な「大人」の不在こそが問題ではないでしょうか。管理職も荒立てないようにするので、まわりは右往左往し疲労してしまう。

そうすると、とにかく批判が出ないような「資料の達人」が登場します。エクセルとパワーポイントが秀逸で、見事な資料を創り上げます。しかし、もちろん、それにかかる時間は莫大となります。しかし、外を向くよりも、中を向くように圧力がかかった新人にとっては、そもそも内向きの資料を作成することばかりに慣れてしまい、忖度が茶飯事になってしまうでしょう。

ところで。そう、立ち止まってみたいのです。

こういう現状を見つめないくせに、何が、「ソーシングなんたらに、カテゴリなんたら、サプライヤリレーションシップなんたら」かよ、と。私の考えに反するひとは、もう文章を読んでいないでしょうから、続けます。私が申したかったことは、ほんらいの業務目的や会社の理念、あるいは青臭い言い方でいえば、己の働く意義、というものを常に意識しておかねば、あのS氏になってしまうということです。

ここですこし思い出話をします。

私の以前の上司Iさんは、現在、埼玉で働いているようです。このIさんは、いわゆる「叱る大人」でした。若いやつだろうが、自分より年長だろうが、理にかなわなかったらほんとうに怒るんです。若手は、ときとして、不条理を感じます。社内の厄介者をてきとうに交わして、ふんふんと日々の仕事をこなす要領者だけが出世し、真摯なひとは出世しないと思っています。真面目なやつにだけ仕事が積り、声のでかい厄介者には、仕事は降らない。そして、それを誰も指摘しない、と。

しかし、Iさんのようなひとがいてくれたら(なかなか声には出せませんが)周囲の部下は安心するものです。「このひとのために頑張ろうじゃないか」と思えます。だから、これを読んでいる管理職のみなさん、自信を持って、厄介者を叱り飛ばしてください。

管理職になっているのですから、正しいことをやってクビになる覚悟くらいありますよね。
そして、なにより、組織全体を「見たくないものを見る」組織にしませんか。

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