EUの嘘に日本の調達人材はどう対抗するか(坂口孝則)
アメリカでの話ですが、冗談のような話があります。バーで裁判官たちが酒を楽しんでいました。そして、裁判官たちは、そのままクルマを運転して帰宅しました。飲酒運転です。日ごろ、裁判官は人々を裁く職業なのにひどい話です。裁判官は警察に止められました。そこで、飲酒チェッカーを受けることになったのですが、ギリギリの酒量だったようで、違反を免れました。
面白いのはその先です。裁判官は、「あの酒量で、アルコールチェックにひっかからないはずはない」とバーに駆け込み、バーテンダーの解雇を要求しました。実際にバーテンダーは、裁判官にたいして、水で相当に薄めた酒を提供していたようです。それにしても、飲酒運転をした裁判官ですよ。「どの口でそんなことを言うのか」とは、まさにこのことです。しかし自分の立場を考えない発言は、アメリカっぽいと言えなくはありません。
ところで、先日、日本では大きく報道されませんでしたが、私が注目する発言がありました。なんと欧州委員長が「原発と天然ガス、気候変動対策に必要」だと言ってのけたのです。おそるべき手のひら返しです。もっとも欧州委員長は、完全な自然エネルギーに移行するまでの期間、と注釈しています。しかしながら、これまでの流れでは、原発と天然ガスは急いで撤廃したほうが良いとしていました。寸分の猶予もなく、いますぐ行動しろと言っていたくせに。
これから、こういった手のひら返しが多くなると予想します。
日本は、世界的なトレンドだとして、自然エネルギーに舵を切ろうとしてます。しかし、現実問題として完全に原発と天然ガスを抜いた電源構成の絵を描けていません。「EUが自然エネルギーを拡充しろといっているのはわかるんだけど、難しいなあ」とモゴモゴと曖昧にせざるをえませんでした。それがここに来て、EUがあっさりと前言を撤回しています(撤回とはいっていないのがややこしいのですが)。
私は「脱炭素調達」を語ったセミナー等でも、各国の動きを情報収集する重要性について言及しました。そして柔軟に施策を練り直すことも話しました。結果、今回のEUの動きを見ると、その発言が正しかったように思います。
自然エネルギーの活用はもちろん捨てないものの、同時に既存の手法も完全には捨てずに現実を見ること。ただカーボンニュートラルの大方針は変わらないでしょうから、他社や他国の状況も注視すること。
さらにここから導かれる結論は平凡なものになります。それはやはり、調達業務においては複数の選択肢が重要だということです。サプライヤでも、あるいは電力でも、常に切り替えられるようにしておくこと。選択肢の多さは、人生における自由だと述べた人がいました。それを借用していうのであれば、選択肢の多さは、調達における強さにつながるでしょう。
これからも手のひら返しの第二波や第三波がやってきます。私たちは、彼らがルールメイカーであり、都合に合わせてルールチェンジャーでもあることを知るべきです。きっと必要なのは、「ルールは決まったら変わらないだろう」と考える日本人の思考へのワクチンであるはずです。