お願いです。心からの叫びを聞いてください(坂口孝則)

このところ、調達部門のマネージャーに対して講演の機会をいただきます。多くはオンラインとはいえありがたいことです。そこで、せっかくですから、日ごろ話していることや考えていることを書きます。現在、日本の企業も個人も自身を失って活力がないように見えます。だからこそ、どうしてもお話しておきたいのです。

みなさんは「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎)を読んだことがありますか。これは小説で、主人公のコペル君とおじさんの物語です。そのなかで私が忘れられない節があります。ちょっと引用してみます。

「君も大人になっていくと、よい心がけを持っていながら、弱いばかりにその心がけを生かし切れないでいる、小さな善人がどんなに多いことかということを、おいおいに知って来るだろう。世間には、悪い人ではないが、弱いばかりに自分にも他人にも余計な不幸を招いている人が決して少なくない」

グサリときました。

私には饒舌に話してくれる、調達課長、調達部長、調達本部長はたくさんいらっしゃいます。しかし、社内の上位者を前にすると、とたんに従順になってしまう方がかなり多い。部下からしてみればしっかりと反論してほしいのに、上位者のご意見に従うばかりで、資料や企画内容が台無しになってしまいます。もちろん、あまり反論すると「面倒くさい奴」と思われるから出世しにくい事情はあるのでしょう。でも、そんなとき、さきほど紹介した「君たちはどう生きるか」の節が浮かびます。

小さな善人と。

ほんとうに怖いのは、誰かが抑圧してくることではありません。それを恐れて無言になることなのです。

同僚や部下と話せる時間は、悲しいほど少ないものです。その少ない姿で、みなさんは部下や同僚にどんな背中を見せられるでしょうか。その部下はきっと入社するときに「夢を実現できる」と聞いているはずです。おそらく上位者の気まぐれに行動が左右される社風だ、とは聞いていないでしょう。

ゲームでしか冒険を知らない若者が増えています。

冒険は目の前の仕事にあります。「うわ、こんなことやっていいのかな?」と挑戦する人材こそ必要です。それを上司が潰してどうするのでしょうか。いい組織に入りたい人がほしいわけじゃなく、いい組織をつくりたい人がほしいのですから。もしかすると、正当であっても、上位者に反論する風土ではないかもしれません。でも、その風土がどこか似合わない調達部員がいたら、私はその人が好きです。

これを読んでいる人が担当者だったら、ぜひ上になったら下に気がつく人になってほしいと思います。いま、部下はどうしてもその組織で働く必要はなく、いろいろな選択肢がある時代に、あえてその組織で働いてくれているのですから。認めてくれるからこそ、部下はその職場で働きたいのです。

調達部門から今後、異動するとしてさびしかったら、しあわせだった、そして挑戦した証拠です。

これまで何回「大人になれよ」と部下は上司から言われてきたのでしょうか。しかし、いまこそ上司も部下も「子供になれよ」と自由闊達な議論や組織を志向するべきではないでしょうか。むかし、若者は安酒場で未来を語っていました。いま、若者は小綺麗なレストランで転職したら年収が上がるかとか金のことばかりを話しています。

私の言うことが古いとは重々承知で、調達部門のマネージャーの方々に、あえて言っておきたいのです。「小さな善人にならずに、しっかりと発言してほしいこと」そして「部下に、真摯で本気の説教をしてほしいこと」。

親友も師匠も、昔は他人だったのですから。

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