22歳のバカな調達部員の物語(坂口孝則)

ある22歳の若手調達部員は、次の話を聞きました。

舞台は1680年の英国ことです。ロイドという青年は事業での成功を夢見ていました。商売の基本は他人の模倣といわれます。ロイド氏は、当時、珍しかった喫茶店に目をつけます。コーヒーを出すなら誰にでもできます。実際に、ロンドンだけで何千もの店が乱立していました。

ロイド氏は「人が集まらざるを得ない仕組み」を模索し、お客の特性に注目します。金融業者が多かったのです。極端な話、コーヒー自体はどうでもいい。金融業者が情報を探しに来る店にしたらいい。

そこでロイド氏は、最新のニュースを提供しはじめました。さらに多くの港に社員を派遣しました。そこで船舶の運行状況をレポートさせ、お客の金融業者に提供するためです。海運業者もお客として引き寄せることができます。さらに、船舶運航によっては金融の相場は大きく動きますから、文字通り「欠かせない」店になっていきました。

喫茶店は大きく飛躍することになります。英国で有名な保険会社ロイズは、ロイド氏の喫茶店から発祥しています。人が集まれば、そこに付加的なサービスを生むのは容易です。

ご想像の通り、この話を22歳のときに知ったのは私です。

ここまで明確に言語化できたわけではありませんが、「情報を出す者がもっとも上手くいくのだ」と悟りました。そうすると逆に情報も集まってくる、と。

そこで私は社内で、他部門が何をやっているのか簡単なレポートにまとめて送付をはじめました。いま読むと幼稚ですが、マーケットの状況や価格変動などを記した報告書も、関係する設計者に配布しました。これがなかったら今の私はないでしょう。のちに、メールマガジンを発行したり、ブログを書き始めたりしました。

社内ではなく外部に発信する際には、さすがに機密などを書くわけにはいきません。そのぶん、文章や考察で読ませる必要があり訓練になります。

私はセミナー講師を他者に依頼する場合があります。その際には「ノウハウはすべて出してください」とお願いします(機密事項は別)。情報をすべて放出するのが良い姿勢だと信じるからです。

さて、なぜこのような話を書いたのでしょうか。実は、昨年に入社した若手調達担当者から、何をすればいいか相談を受けたからです。コロナ禍で先輩たちにもあまり会えていない。頭の良い人ならば戦略の卓越さ等で、付加価値を生み出せるかもしれません。

しかし、私のような馬鹿者は、愚直に情報を発信することしかできなかったのです、と。

情報購買、という言葉があります。だいぶ前の言葉で、これからは情報入手や情報分析が重要になるという意味です。ただ難しいことではありません。自分が知っていることを、感想とともに発信すればいい。しかも、それは社内の設計、開発者、生産、物流、営業の方々にとって貴重です。

馬鹿者の私が断言するのもためらいますが、10年後から振り返ったとき、情報提供がもっとも簡単な上手くいく方法だったと気づくのではないでしょうか。

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