【必読】たぶんサプライヤから訴訟されますよ(坂口孝則)
今回は非常に書きにくい話題です。トヨタ自動車と日本製鉄の件です。書きにくい理由は両グループともに私たちのセミナー等の顧客であるためです。できるだけ感情ではなく事実を記します。もし関係者がご覧になって誤記がありましたらお知らせください。
2021年の8月ごろに、日本製鉄は鉄鋼納入価格を2万円(1トン)の値上げをトヨタ自動車をはじめとする自動車各社と交渉し合意にいたります。さらに10月には知的財産権侵害を理由に日本製鉄がトヨタ自動車を訴えました。モーターに使用された宝山鉄鋼の電磁鋼板が日本製鉄を侵害したからというものです。
日本の報道を見ていますと、日本製鉄がトヨタ自動車をいきなり訴えたように思えます。しかし実際には何度か日本製鉄からトヨタ自動車側に協議を求め、さらには議論を重ねた果ての訴訟のようです。
ここから一般論になります。みなさんの調達部門もそうであるようにサプライヤと基本契約書を締結していますよね。そのなかにはサプライヤが納品する製品の技術的な特許侵害はサプライヤが解決するべきものであり、使用側(調達している企業)の責任は免れるとしているケースが大半です。しかし、重要な点は、その基本契約書はあくまで二社間のものである当然の事実です。
2019年には半導体企業のグローバリーファウンドリーズがTSMCを特許侵害で訴訟しました。そのときには同時にアップルやクアルコムも訴えられています。その他の裁判例を見ても、使用側(調達している企業)はセットで訴訟対象になっています。
ここで仮にA社を調達企業、B社をサプライヤ、C社をB社から模倣されたサプライヤとします。C社はB社を訴えるとともに、使用側(調達している企業)であるA社も訴える構図です。このとき、A社は敗訴してもB社に対して損害を求償できる立場にあります。だからA社(つまり私たちのことです)が完全に敗者ではありません。ただ、この訴訟が一般化すれば大変なことですね。
ここでややこしい話をせねばなりません。
2007年に話がさかのぼります。韓国でポスコの情報が宝山鉄鋼に流れたとして、元ポスコ従業員が訴えられます。その裁判の過程で、訴えられた元ポスコ従業員が爆弾発言をします。(大意でいえば)「私は宝山鉄鋼に流した情報は、そもそもポスコが新日鐵から盗んだ秘密であり、そもそもポスコの特許技術ではない」と言ったのです。これにより、もともとの発明者が自らの特許技術を守るために訴訟に踏み切ることになります(なお当然の権利です)。
また宝山へ売っていた技術内容はポスコが日鉄から盗用したものだとして2015年に認定され、和解金を払うように命じられ和解しました。
話を調達側に戻します。繰り返すと、基本契約書で技術的な特許侵害をしていたとしても責任はサプライヤ負うものだとしているでしょう。使用側(調達している企業)は何ら問題がないとしているはずです。しかし、もはやそのような二社間の問題ではありません。サプライヤが違う他者の特許を侵害していないか確認し管理する必然性があります。
サプライチェーンの再構築は、さまざまな国のサプライヤをまたぐ複雑怪奇な様相を呈しています。そのとき、サプライヤの提案内容を鵜呑みにするのではなく彼らから提供される調達品の特許内容までを確認する時代に突入しています。これをもって調達部門の役割が増したと思う向きもあるでしょう。
いや冗談ではなく実際に調達とは自社のリスクをも請け負う存在になりつつあるのです。