誰も知らないコロナ禍での企業の調達力(坂口孝則)
カリコー・カタリンさんをご存知でしょうか。女性で、mRNAワクチンの生みの親です。ハンガリーの辺境で生まれました。科学者としてRNAに注目し続けました。しかしハンガリー政府の方針で研究が打ち切られ、彼女は米国に移住します。しかし、体内に直接mRNAを注入する方法は、米国でも総スカンをくらいます。
その状況を救ったのがドイツの製薬会社バイオンテック。異端の製薬会社です。なんとか彼女は右往左往しながら研究を続けます。しかしまだmRNAのアイディアは、荒唐無稽と考えられていました。
それをさらに救ったのがファイザーでした。ファイザーは、自社の中央研究所に依存せず、世界中の製薬ベンチャーからノウハウを調達する形に切り替えていました。そのファイザーのCEOアルバート・ブーラさんです。先日、菅義偉首相とテレビ会議を行い、日本でも顔が知られるようになりました。このブーラさんも異端の存在でした。
彼はギリシアで生まれ、元は獣医師です。動物用製薬品に長く携わっていました。そして、そこから同社の中では異例の出世を果たします。ブーラさんは、カタリンさんのmRNAワクチン研究に多額の費用をつぎ込みます。mRNAワクチンは、生み出した人も、援助した人も、採用した人も、そのほとんどが異端の人たちでした。ブーラさんはメディアのインタビューで、自社だけではなく、広く民間の力を活用して革新につなげるとしています。
本来は、外国の方を取り上げる際に「呼び捨て」か「氏」が一般的だと思うのですが、敬意をかねて「さん」付けとしました。
コロナ禍で先端を走る企業は、外部の叡智や発意を調達しています。これまでのようにすべてを自前主義でまかなうのではなく、まさに調達主義の時代です。成長を加速させるために、外部の技術を使って、いかに製品を届けたり、既存ビジネスと相乗効果を高めたりするかを考える。
私は調達・購買部門の役割が、QCD確保だけではなく、外部パートナーの選定に移っていくと論じました。それも20年ほど前のことです。もちろん、部材の確保や在庫化といった古くて新しいテーマをないがしろにしていいわけではありません。ただし、調達力は、企業力に近づいているのです。