最強の調達組織を作るための冴えたやり方(坂口孝則)

コロナ禍がはじまってから医師や感染症研究者のメディア出演が増えました。そこで、マネーデータベース『製薬会社と医師』ってご存知ですか。URLはあえて書きませんが、すぐ検索可能です。無料で使え、どの製薬会社からどの医療者にどれくらいのお金が渡されているを検索できます。各社はガイドラインに従い、どの医療者に払った金額を公開しています。テレビに出ている専門家がどのような機関から何の名目でいくらもらっているか明確です。彼らも人間だから、いろいろな制約を受けています。ウソはつかないでしょうが、何らかのお金を特定企業から受け取っていれば、なかなか企業に反する内容は言いにくい。

コロナ禍で明らかになったのが、専門家たちの「訂正不可能性」でした。新型コロナについて、ほんとうは誰も完全には理解していません。だから、なぜ陽性反応者が増えたのかも、なぜ人流は減っていないのに陽性反応者が減ったかも、正直にいえばよくわからない。これが専門家の本音だったのではないでしょうか。しかし、「よくわからない」とはメディアで言いにくい。さらに「以前お話したのは間違いだったかもしれない」とはもっと言いにくい。その結果、国民のなかで、ある種の専門家への不信感が生じてしまいました。

正直に「よくわからない」と言ったほうが、むしろ信頼が得られたのではないか。意見を訂正したほうが、まともに見えたのではないか。そう思います。

そしてこれは医療関係だけではなく、広く日本に行き渡っている悪習ではないか、と私は思うのです。さらに、意見を訂正可能にするのが強い組織を作る、と結論を述べておきます。

DX化やらもろもろで、多くの企業では過去の仕事や資料や発言等が記録に残るようになっています。企業で会議に参加していると、次のような発言をよく聞きます。
「それは本部長に報告した内容と違う」
「以前に話した内容と違う」
「計画と違う」「想定と違う」
だから、多くの組織人は、以前の内容とつじつまが合うように事実の方を曲げていきます。しっかりと過去を記録しているのはいいのですが、そのぶん、逸脱や想定外が許されなくなっている。

これは意見をコロコロと変えろ、という意味ではありません。昔と現在では、情報も環境も条件も変わるのですから施策が変わるのも当たり前です。「あ、以前に話したことは間違いでした」「あ、以前にやろうとしていたことは失敗でした」とすぐさま言える環境づくりが大事だと私は思います。

ちなみにこれは上司が部下に言う発言も同じです。上司が何気なく言った一言を、部下はずっと盲信したり拘泥されたりするものです。しかし上司も常に間違うくらいに考えたほうがちょうどいい。私が尊敬するOさん(企業経営者)は部下に、自分が決断で間違うことを部下に宣言しているそうです。「俺は条件しだいではすぐに取り消すから、お前らも間違っていたらすぐに取り消してくれ」と。

先日、テスラが原材料や半導体を直接購買すると報じられました。それまでは、アッセンブリーメーカーが原材料や半導体を調達し、完成品をテスラに納めていました。それを直接購買に切り替えて訴求性を高めています。さらにサプライヤ同士を競争させる方法から、あっさりと指名購買に切り替えました。何よりも製品の確保に注力したかっこうです。このように、かつての正解は、現代の正解ではないかもしれません。過去にやり方を自ら否定し、そして訂正可能性を担保した上で、つねに「現時点でのベスト」を追求する。

これこそが、言った言わないの不毛な議論を超えた組織のあり方ではないでしょうか。自分の過去を否定する勇気を持とう、と言っておきます。

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