私たちはいつまで不毛な納期催促を続けるのか (坂口孝則)

レイ・クロック氏をご存知ですか。マクドナルドの創始者です。正確には、調理モデルを創造したのはマクドナルド兄弟ですが、それをシステム化、組織化してフランチャイズチェーン展開をしたのがレイ・クロック氏です。この氏にはいろいろな批判もありますが、ここでは好意的に取り上げます。私が氏のエピソードで好きなのは、売り込みに来たセールスパーソンとよく面談していたことです。

企業のトップが、なぜ売り込みに来たセールスパーソンに時間を割いていたのか。それは、いろいろな窓口を突破して、自分のところに辿り着いたセールスパーソンは優秀であるに違いないとレイ氏が確信していたからです。たしかに企業のトップにアポイントを取るのは難しいですからね。そしてレイ氏は次々に優秀なセールスパーソンを口説いてヘッドハントし、自社に入社させました。

なぜこの話を書いたかというと、先日、企業の重役が「調達品の安定供給を実現できる人材がいたら、相当な給与を払ってもいい」と半分冗談で言っていたからです。とくに原材料や半導体を対象としていました。私は、レイ・クロック氏の話を引用しながら「原材料や半導体の商社やメーカーが売り込みに来たら、ヘッドハントしてはどうですか」と提案してみました。物量の確保にはスキル、交渉力が必要なはずです。調達機能強化が現在ほど求められている時代はありません。

さて納期問題解消のためには
・サプライヤリレーションシップ強化
・マルチソース化
・在庫化
などがあげられます。「サプライヤリレーションシップ強化」については過去も説明しました。また、「マルチソース化」やその発展系についても紹介しました。衝撃的なテスラの取り組みも解説しました。

納期不足を解消するテスラの異常な方法

今回は、在庫化を解説します。在庫が悪として認識するのは財務上は正しく、自動車メーカーは調達品在庫ゼロを目指してきました。しかし、ここに来て生産を止めるわけにはいかないと調達品の在庫化に動いています。

在庫の費用は大きく二つあり、資金調達面、現場面です。

【資金調達面】
・銀行利息支払い
・株主への配当支払い

【現場面】
・倉庫の土地
・倉庫の建屋
・倉庫での労務費
・倉庫の減価償却費

もっとも、資金調達面、現場面の双方とも、企業によってバラバラです。銀行からタダのような利息で借り入れている場合、株主に配当など払っていない場合。また、過疎地に倉庫があるか、都心部に倉庫があるかでも違います。

ただ、そう話すと埒があきません。ここではざっくりと、資金調達面+現場面の費用として、年間に在庫費用の5%が発生すると考えましょう。1億円の調達品を1年間ずっと在庫にしたときの費用精算が500万円かかっているということです。これは高いと思うでしょうか。以前はそうだったかもしれません。しかし、モノ不足の現在は違って見えます。

つまり、この5%を費用として考えたときに、もし在庫がなく生産できなかったときの逸失利益と比較するのです。さきの例でいえば、費用は500万円かかるけれど、在庫を持たなかったので生産が止まり、結果600万円の利益が無くなるとしたら、在庫をもったほうが良いはずです。この計算は雑なので、精緻さが求められます。しかし、このように費用対効果を冷静に計算するのが重要です。

これまでの歴史は、原材料と半導体の逼迫がずっと続かなかったと教えてくれます。いつ逼迫が終わるのか、予想は困難です。ただし、積み増すことを選択肢として、柔軟に在庫を設定し、市場環境に追従することが必要ではないでしょうか。

柔軟さ、アジャイル、とはこれからの生き残りのキーフレーズなのですから。

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