取引先に「長期的に儲けて」と言うのをやめよう(坂口孝則)

中国の深センに長期駐在した製造業勤務の米国人がいます。彼は中国企業を取引先としていかに活用するか苦戦してきました。彼はブログを書いたり、書籍を発行したりしていて有名な人です。書籍は日本語でも翻訳されました。彼は多くの示唆に富んだ記事を残しており、かなり実務的です。

「中国企業の工場を訪問したときに、工場長に会えなかったら、中国企業はあなたの企業に興味をもっていない」
「中国企業に根拠なく価格を値切ったら、かならず品質が悪くなるからやめておけ」
「中国企業には性善説ではなく性悪説であたれ」

など、さまざまな学びがあるのですが、私としてもっとも頷いたのは次の内容です。

「日本企業のように、中長期的に儲けてくれ、というのは通じないよ」というものです。日本人はかならず取引先に「最初は儲からないかもしれないけれど、そのうち儲かるようになるから、中長期的に考えてください。そのうち投資が回収できるようになります」といってしまいます。これがグローバルスタンダードからは離れているというのです。

この話をすると、短期的な利益を求める欧米企業と、長期的な利益を求める日本企業の違いとして、日本企業の良さを強調する人たちから反論されます。でも、ほんとうにそうなんでしょうか。かつて日本企業のトップは「私たちは短期的な利益を求めません。長期的な利益を追求します」といっていました。しかし、長期的な利益を示す企業価値では、この20年間で、日本企業のほとんどが世界企業価値ランキングから姿を消しました。

重要なのは、短期的にも、中長期的にも稼ぐことです。

日本人は「最初は赤字でも我慢してくださいよ。そのうち儲かるから」と言いがちです。ただ市場のサイクルや商品の入れ替えがこれだけ速くなった現代において、再考が必要でしょう。すべてが中国企業を相手にした短期的な利益を目的としたものになるとはいいません。しかし、重要なのは、「短期的に儲からないものは、中長期的にも儲かるはずはない」という、笑ってしまうような現実です。

話を変えるようですが、実はこの前、私に「無料で取材に応じてくれないか」と新聞社からの依頼がありました。私のメリットを訊くと「媒体に載ることで宣伝効果があります」とおっしゃいます。しかし、この手の話を受けて宣伝効果があったためしがありません。私は誰かをイベントでお呼びする際には、ちゃんとお礼を支払うようにしています。これは、善意に頼らないようにしたいからです。さらにしっかりとお礼を払ったほうが長続きする関係になると信じています。

話を企業の調達に戻します。

これからは取引先にもしっかりと適正な利益を稼いでいただく。そして、自社は取引先からの調達品を活用して、しっかりと稼ぐ。こういった当然のサイクルを回すことが、それこそ「持続可能な社会の実現」のためには重要ではないかと私は思います。

日本では、典型的なブラック企業の経営者が社員に夢やロマンを持てと説いています。さらに経営に透明性を、と主張する経営者の企業では自殺者が相次いでいましたが、その経営者は一度も記者会見を開くことなく引退し、経団連のお偉いさんになりました。

私は自分の息子には自慢できる仕事をしたいと願っています。持続可能社会を語るのであれば、取引先に根拠なきコスト削減を強制するのは止めたいものです。「最初は赤字でも我慢してくださいよ。そのうち儲かるから」ではなく、最初から適正な価格を支払いましょう。社内関係者がイチャモンをつけてきても、取引先にとってはこれが妥当な価格だ、と喧嘩をするくらいの気概が必要ではないでしょうか。それくらい社内に説明できなければ、調達改革なんて不可能だと思いますよ。何よりも、ご自身の子供に「いやー、今日は取引先に難癖つけて価格を下げてやったよ」なんて言えますか?

無茶なことをやらなければ企業が存続できないのだとしたら、それこそ持続可能社会の実現からは遠い企業といえます。みなさんは調達部員として無理をしても存続させたいと考えるのでしょうか。かなり青臭い主張ではあります。しかし、私はこの時代だからこそ本音が必要ではないかと感じています。

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