調達業務と社内恋愛についての考察 (坂口孝則)

20年ほど前に、某社の取り組みを聞きました。テーマは「社員をどうやったら、やる気にさせることができるか」。理屈抜きで、社員がやる気をもって、かつ楽しそうに働いたら業績が伸びるに違いないと、そこの社長は信じていました。ただし、いろいろなコンサルタントを雇っても上手くいかなかったようです。

そこで試行錯誤の末、もっとも効果をあげた取り組みは、「社内恋愛の励行」だったそうです。この文末に「(笑)」と書くべきでした。しかし、笑い事ではなく、ほんとうに効果があったようです。会社が率先して、社員同士の恋仲を仲介。結果として、恋人がいないオフィスよりも、恋人がいるオフィスになら行きたいと思うようになる(私は実感がありませんが)。さらに、恋人が見ているなら、はりきって働くようになる。変なところは見せないように奮発する。

そしてなんと業績は倍増。退職率も圧倒的に下がったようです。

なお、この会社は有名な食品加工会社です。

ところで、この施策は20年後の現在でも有効でしょうか。私は有効だと思うものの、実効性というより、実行性はあやういのではないでしょうか。この現代において、社員間のプライバシーに介在するような取り組みを積極的に実行できる気がしません。もちろん私が「社員のプライベートを詮索してはいけない」という気持ちにとらわれすぎているかもしれませんが。現代でも、実施できる会社は実施できるのかも。

しかし、実施うんぬんにかかわりなく、一つの面白い事実があります。前述の会社では、社内恋愛を勧めたと説明しました。結果、社員の移動量が増え、それが業績や、仕事を通じた幸福度につながったというのです。恋人がいるオフィスでは、移動量が増える(それはハキハキ働いたり、恋人のいる他部門まで移動したりするからでしょうか)。それこそが業務満足度の源泉なのです。

なんと、移動が幸福だったのです。

そして裏付けるように、多くの研究では、身体的な動きが増えるほどオフィスでの幸せが増えるとしています。これは因果関係なのか相関関係なのか断言は避けます。しかし、とても示唆的だと私は思います。

現在、テレワーク、テレビ会議が盛んです。ただ、イマイチ相互理解が深まりません。これは、もしかすると身体的な問題ではないでしょうか。つまり、これまでの会議だったら、会議室に行く前に同僚と事前相談したり、会議の終了後に喫煙所に行って会議の感想を言い合ったりする。「あの議題はいかがなものかねえ」と率直な感想を伝える機会もあるでしょう。オンラインでは難しい。このように、オンラインの難しさは、身体が伴わないのが原因だと私は考えています。私以外に、同じようなことを言っている人がいるか知りませんが。

なお、大学のオンライン授業も同じような問題を抱えていると考えています。授業の帰りに、同級生と「あの授業は、どうなんだろうね」と語り合う機会の減少が理解を妨げていると私は思います。同級生と一緒に歩いて話し合う機会の少なさ、身体的な交流の少なさが問題ではないでしょうか。

サプライヤとの関係を考えてみましょう。現在、オンライン交渉が盛んですが、あまりしっくりきません。ただ原因として、画像が悪いとか音声が悪いといった側面を指摘する人がいます。それは的外れではないのか。むしろ、交渉前後に、身体的な交流が減った点に原因を求めるべきでしょう。動きを共にしていない。つまり、誰もが自宅に閉じこもって動かない点に問題があると思うのです。

繰り返しますが、私と同じような問題点を指摘しているひとがいるかどうかは知りません。さらに、現時点では私の考えも、まだ抽象的です。しかし、私はテレワークを進めるなかでも、いかに動くか、が社員幸福度であっても対サプライヤマネジメントでも重要になってくると思います。抽象的ながら、必要なのは、誰もが動く環境を作ることです。

以前、私の上司は「電話じゃなく、とりあえず社内関係者のところに会いに行くぞ」と口癖のように言っていました。当時は反感を覚えたものの、動くという一点で考えれば効果のあった教えだったのでしょう。

そうそう。職場で落ち込みがちな方へ。理屈は抜きで、とにかく動き回ってみましょう。それが落ち込みを軽減することは、多くの研究が証明しています。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい