調達・購買部門はコストダウン要求をやめるべきである
多くの調達・購買部門は過去に例を見ない、新たな問題を抱えています。加えて「働き方改革」によって労働時間も制約され、結果的に過去と同じ言葉をサプライヤに垂れ流し、身動きが取れない事態に直面している企業が多くなっています。進むべき道を見失っているとすら思える調達・購買部門の実態を目の前にし、私はサプライヤへコストダウン要求を止めるべきと考えるに至りました。こう考える理由は2つあります。
1つは繰り返し購買におけるコストダウンです。繰り返し購買を行っている企業は、価格決定後半年なり1年といった期間を経過した後、コストダウンを実現するバイヤの社内評価が高くなります。一方、コストダウンできないほどの購入価格を実現し、半年後や1年後も同じ金額で購入するバイヤの社内評価は上がりません。
そもそも一度決定した単価が、数量や仕様といった条件が見直されないにもかかわらず、半年や1年経過しただけでコストが下がりません。コストダウンが実現したのではなく購入当初の決定価格が高かったのです。購入時点の価格交渉に甘さがあったからこそ、短期間のコストダウンがさも実現したように見えるだけ。サプライヤもバイヤ企業の社内評価基準を逆手にとり、価格見直しの際に少しずつ当初決定した価格に含まれる利益を小出しにしているのです。繰り返しますがコストダウンではありません。今すぐにやめて購入当初の交渉に注力すべきです。
2つ目は売り手と買い手のパワーバランスの変化です。近年人手不足や企業の休廃業・解散発生件数は高い水準で推移しています。この事象は売り手の減少であり、調達環境の悪化要因です。コストダウンによって安価な購入価格をサプライヤから引き出すより、限られたサプライヤを囲い込んで円滑に必要な原材料や部品、製品を入手する取り組みの優先順位アップは確実。需要が増大し、災害がなくてもサプライヤの能力不足による供給の断絶が発生している現実への対処を優先すべきです。
従来多数の売り手が競って少数の買い手に販売する図式が、これからますます成立しづらくなります。少数の売り手に対して、根拠のないコストダウンを「あたりまえ」と称して要求する買い手は、売り手には好ましくない顧客です。これからの時代、売り手がより好ましい買い手を選ぶといった傾向が強くなれば、コストダウンを要求するバイヤ企業は、サプライヤから選ばれなくなるのです。
いうなれば、サプライチェーンの断絶が日常的に発生する時代が、もうそこまで来ています。現在進行形で台風や大雨の被害によって購入品の納入が滞り、供給再開に向け苦労しているバイヤもいるはずです。そういった状況に陥ったサプライヤにコストダウンの要求ができるでしょうか。サプライチェーンの断絶が日常的に発生する時代は、コストダウンをサプライヤに要請することはできなくなります。バイヤ企業がサプライヤへ要求する購入条件は価格以外でも多岐にわたります。コストダウンは今、もっとも安易で楽なサプライヤへの要求事項であり、どんな企業でもサプライヤに語り要求する内容です。競合他社との違いを調達・購買部門で明確にするなら、今こそコストダウン要求をやめるべきなのです。