フリーのバイヤーとして生きていくということ
「俺が成し遂げたコスト低減はこんなもんじゃない」
ボーナスの時期になると、以前勤めていた会社の同僚がこんなことを言っていたのを思い出す。
大幅なコスト低減を達成したものの、一体どれだけが賞与や給与に反映されているのか。
むしろ、上司にゴマをすっている奴や、報告が上手かったり、アピール上手の奴ばかりが評価を上げているのではないか?
1億円のコストダウンは、つまり1億円その会社が払っていたかもしれないコストを削減することだ。それであれば、その半分くらい、5千万円くらいは俺に報酬としてくれたっていいじゃないか、と思うのは自然な心情だろう。
私は常に、会社がどうであれ、自己の向上に取り組むべきだ、と言ってきた。
しかし、会社から受け取る報酬もやはり重要なモチベーションのファクターであることは間違いない。
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それは、バイヤーの法人化の実現、ということだ。
現在、日経新聞紙上で報じられている通り、所得税の見直しが進んでいる。
新しい税の形はまだ見えてこないが、いまのところ所得税、住民税、社会保障費を足し合わせるとサラリーマンは所得の平均25-30%を国に納めていることになる。
サラリーマンは奴隷である、というセンテンスの背景には、サラリーマンのほとんどが税金の自己申告したことがなく、源泉徴収という名の搾取構造に組み込まれている、という現状がある。
それに対し、自営業者などは、所得を自己申告し、どれだけ税金を払うか(経費を計上するか)をコントロールしている。
むろん、自営業者のハイリスクな状況を知らないわけではない。
ただ懸命に頑張っている自営業者がいる一方で、社会保障や年金を踏み倒す事業主が莫大に存在することも事実だ。
そこで提案されるべきものが、バイヤーの法人化の実現である。
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Aさんというバイヤーがいるとする。
半導体の購買担当で、入社7年目。サプライヤーとの人脈も多く、製品知識も営業マンと対等に交渉できるほどはある。毎年定期的なコストダウンの実績もあり、さらに向上心も高い。
Aさんは、現在の職務を継続しながら、「A株式会社」を立ち上げ、属していた企業と再度契約を結ぶのだ。
一体こうすることによって何が変わるのだろうか?
まず社長になることができる。1名だけの会社であるが、名刺には代表取締役の印刷も可能となり、奥さんを秘書として雇うことも可能となる。
そして、企業とその「A株式会社」との契約は、業務委託契約ということになるだろう。
企業は、その「A株式会社」の口座に毎月支払いをし、AさんはあくまでもそのA株式会社から報酬という形でお金を受け取ることになる。
一人が高額の報酬を受け取っていては、日本の税法では累進課税で税率が高くなるだけでバカバカしいので、奥さんと報酬を二分することにより、税率を抑えることも可能となる。
企業にとってみても、1従業員を雇用することで発生する莫大なコストを削減することができるようになる。
あのわけのわからない、保養地などに代表される福利厚生も削減でき、親睦目的の運動会などというムダ金も削減可能であり、場合によってはオフィススペースという空間維持費も削減できる。さらに大きいのは、企業が現状半額負担している社会保障費だ。
そして、企業と個人にとって一番大きいことは、従属関係から、企業間契約という対等な関係にシフトすることだ。
コストダウンのプロジェクトに参加し、1千万円の報酬を受け取ることも可能であろうし、あるいは現在の購買担当職務を続けながら、コストダウン率に応じた報酬を受け取ることも可能になるだろう。
そして納税の時期には、自分がバイヤーとして成長するために使った費用や、電車代から消耗品購入に至るまで、総点検し、まさにコスト意識の高いビジネスマンに生まれ変わることができるだろう。
PCや通勤に使うクルマだって、経費として計上できる可能性もある。会社に依存せずに考えるようになること自体、すごいことだ。
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もちろん、多くの問題があることは分かっている。
評価の問題がこれまで以上にクローズアップされるであろうし、企業に属すことの安心感が損なわれることも否定できない。
しかし、それでもなお。
バイヤーの個人法人が生まれ出せば、バイヤーの職業観は一変せざるをえない。
コストダウンと購買戦略に対して、敏感になり、試行錯誤を今まで以上に熱心にやるだろう。
真の意味での自立が可能となる。
そして間違いなく、個人法人のバイヤーはスキルを開発し、なによりも自由を得ることができるだろう。
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上記の文章は、フリーエージェントをむやみやたらに賛美するものでは決してない。
バイヤーという、最もスキル開発が遅れがちな領域であり、かつ多くの人たちが悩んでいる状況を打破するための、「突飛な」提案だった。
加えるならば、各社がコストダウンを強力に進めつつも、なかなか効果が出ずに手法を模索中の現在、このような個人法人(フリー)のバイヤーを生み出し、各企業に紹介するということ自体がビジネスになりうるのではないかとすら私は考えている。
「世界に売れるバイヤーになろう」