5章・(2)-1 虚業とものづくりの差は存在しない
キーワード「金融業」「虚業」「農業」「製造業」「ROA」
・金融業は悪の化身なのか
この日本に根づいている言説があります。「金融業は虚業であり、製造業こそが尊い」という言説です。でも、これはほんとうなのでしょうか。
さきほど、占いやスピリチュアルブームに潜む、商売人たちの思考をみました。でも、そのような商法よりも、日本でもっと批判されているのが「金融業」というものです。なにやら、「お金がお金を生むような商売はまともではない」「カネのことしか考えない職業が、日本全体もお金第一主義にしてしまった」といいます。
私は金融業を批判することは好みません。それが、たとえその批判者たちのいうところの「虚業」であったとしても、私にはそのような職業差別的発言を平気でする気にはなれないのです。たとえば、日本であっても戦後まもなくの頃まで農業に従事している人が大半でした。製造業が素晴らしいというサラリーマンやその論者たちが携わる(勤めていた)製造業であっても、国をひっぱるようになってからたかが数十年の歴史しかありません。もし、その時代に「農業こそが素晴らしい、モノを作るなどという製造業は虚業である」という人がいたらどうなっていたのでしょうか。農業を、製造業を、金融業を、それぞれ優先する言説は、どのようなものであっても、一つの考え方にすぎません。
ただし、私がいいたいことは、そのような倫理的観点からでなくとも「金融業と製造業のあいだに差は存在しない」ということです。前章までしつこく見てきたように、商売とは「元出を使って、できるだけ安く仕入れ、それを高く売ることで利益を得る」ことに尽きます。元出を使って、人にお金を貸して利子で儲けても良いですし、モノを作って販売して儲けても良いですし、人に奉仕することで儲けても、そこに何の違いもありません。倫理観とは別に、問われているのは「元出をいくら増やせたか」ということなのです。