5章・(3)-1 考えておきたいフェアトレードのこと
キーワード「フェアトレード」「労働コスト」「機械との比較」「デフレ悪玉論」
・情けは途上国のためになるのか
金融業が批判されているのと同じく、途上国の労働力を活用して安価な製品を作ることもときに非難にさらされます。アジアの国々の労働力、ときに幼い子どもたち、を安く雇い衣料品を生産していた有名なメーカーがありました。少ない給料で雇って子どもたちを酷使するのは許せない、といくつかの団体が抗議し、不買運動まで起きたのです。
この流れのなか、「フェアトレード」という言葉が登場しました。これは、途上国に公正な賃金を保証し、適正な価格で製品を購入する動きのことです。途上国の自立を促す新たな支援形態として注目されています。要するに、価格を上乗せして買ってあげるわけです。
しかし、ここで考えておかねばならないことがあります。もし、あなたが会社の経営者だとして、途上国の労働コストがあがってしまったらどうするでしょうか。簡単です。もっと安価な労働コストを提供してくれる国に生産拠点を移せばいいのですから。それに、労働コストのほうが機械よりも高くなってしまえば、機械に切り替えるでしょう。リアルな問題として、あなたは製品のコストに敏感にならざるをえませんから。
- 企業の行動原理1:ある国で労働コストが上昇すると、他国へ生産拠点を移行する
- 企業の行動原理2:労働コストを、機械化によるコストと対比し最適化する
- 企業の行動原理3:労働者の給料をあげるインセンティブは持っておらず、常に利益追求のために製品のコストを抑えようとする
もちろん、3は言い過ぎのきらいもあります。労働者のモチベーションをあげることで生産性の改善が期待できるからです。ただ、原則として会社は利益第一にならざるを得ず、コストをできるだけ抑えたいという基本は認識しておきましょう。それに、一度でも製品の原価を計算したことがある人は、製品にしめる労働コストの大きさに驚いたことがあるはずです。