5章・(1)-2 スピリチュアルブームと占いブームの裏で
・予防策を売るのか、解決策を売るのか、そして何を脅すのか
たとえば、「ダイエット」にまつわる商品を二つにわけてみましょう。すると、このような分類が可能です。
- 予防策を売るモノ……太らないように、日々の生活習慣や食生活の改善を促すもの
- 解決策を売るモノ……太ってしまったあとに、どうやって痩せるかを伝授するもの
前者はさきほどの「不安産業」のように、将来の漠然とした恐怖を煽り、商品購入に誘導するものです。そして、後者は太ってしまったという事実を前に「ひどい将来が待っていますよ」と痩せなければいけない動機を醸成します。つまり、「このままではいけない」という脅しをかける、という点では同じなのです。
では、前者と後者のどちらが、商品をたくさん売ることができるでしょうか。それは、後者です。もちろん、将来の不安を獏と感じている人に商品を売ることはできます。でも、やっぱり、「すでに太ってしまっている人」「すでに身の回りに不幸が起きてしまっている人」のほうが、信じやすく、かつ解決策を欲しがるものです。だからそこに、有象無象の山師が群がり、かつ詐欺商法に近い商売までもが跋扈しています。根拠のないオカルティックな占いや、スピリチュアルな言説もたくさん登場しつづけているのはご存知でしょう。
ところで、かつて私は『営業と詐欺のあいだ(幻冬舎新書)』という本を上梓したことがあり、そこで描いたのは悪徳商法や詐欺まがいの商売から、いかに自分の身を守るかということでした。しかし、残念ながら、オカルティック、あるいはスピリチュアルな本の売れ行きに届くことはありません。
おそらく、人間は「洗脳を解いてほしいから本を買う」のではなく、「洗脳されたいから本を買う」のですね。私にとっては考えさせられる経験でした。