3章・(10)-2 減価償却とは何か
・ちょっと難しい減価償却の実務の話
ところで、この減価償却ですが、ある年は定率法で、ある年は定額法で、などという恣意的な運用は許されません。それが可能であれば、会社はいくらでも利益を操作可能になるからです。よって、会社はどちらの方式を選択するかを予め決めておかねばなりません。
そこで、多くの企業は定率法を選択しています。さきほどの例では1億円の設備を購入したと仮定しました。グラフでわかるとおり、買ったばかりのときにたくさんの費用を計上できるのは定率法の方ですよね。だから、ほんとうに支払った金額と、費用をできるだけ近づけるために会社は定率法を選択しています。
また、その1億円の設備を何年使うか、というのはどうやってわかるのでしょうか。それは基本的にはそれぞれの会社で経済状況や計画をもとに自ら決めるべきものです。ただ、そうなると、同じ設備でもある会社は1年、違う会社は10年などということが起き得ます。ですので、国は「法定耐用年数」というものを細かく規定しています。それならば、この設備が何円で償却するべきか迷うこともありませんからね。
ただ、それでもなお、1億円支払ったのに、その1億円を費用として計上できないのはおかしい、と思った人がいるかもしれません。実はこれが、決算書の数字と、会社の実際のお金が離れてしまう理由でもあります。決算書の利益は、その1億円を分割して費用として計上するだけです。だから、ときに利益がたくさん出たように見えてしまいます。しかし、実際は1億円かかっているので、その分はお金が減ってしまっています。
しかも、多くの実務家からは、国の定める法定耐用年数が長すぎる、という批判もあるのです。ほんとうは5年しか実用に耐えない機械の法定耐用年数が10年。でも、ルールに則るとその機会を完全に費用化できるまでは余計に5年もかかってしまいます。
ここで世の中の社長さんたちの苦悩が少しは理解できるでしょうか。