3章・(3)-2 どうして現金だと仕入れ値が安くなるのか?
・現金払いはほんとうに安いのか
商品を販売した瞬間に、現金で受けとるということは、どういう意味を持つでしょうか。さきほど挙げた三つのリスクを消すということです。たとえ代金を3ヶ月後に受け取るとしても、そのあいだに銀行から借りたお金に利子は発生します。それに、初めて商売をする相手であれば、どれだけ信頼に足る相手かもわかりません。
冒頭の紳士は、この現金での仕入れに努めていました。それにたいして営業マンが笑顔で値引きしていたのも、その尊大な態度と無関係に「現金」というものの強さを知っていたからでしょう。それが3ヶ月後に支払うことになる手形であれば受け取らなかったかもしれません。目の前の現金とは、それだけ力を持っているものだからです。
まったく倒産リスクのない買い手会社があったとしても、現金化までの数カ月の利子分は安くすることが理論的には可能になります。前々節で、1万円が利子3%で貸し出されている会社の例をあげました。わかりやすくするために、この会社では年利3%ではなく、月利3%だとしましょう。とすれば、1万円の変化はこのようになります。
- 1ヶ月後:1万300円、2ヶ月後:1万609円、3ヶ月後:1万927円……
だから、3ヶ月後に支払われる1万927円の商品代金があるとすれば、現金1万円をいますぐ支払ってくれれば良い、ということになります。約10%割引は可能ということなので、これは買い手も喜ぶかもしれません。
ただ、注意も必要です。よく、「現金で仕入れるだけで数%安くすることができた」という人がいます。ただ、それは相手の危険負担や利子負担を、こちらで引き受けたにすぎないことが多いからです。もちろん、現金払いだったら相手は喜ぶでしょう。しかし、それはほんとうの「安さ」とは少し違う意味を帯びます。
方法を変えるだけで、安くできること。そんな魔法の杖はどこにもないからです。