調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 2章(1)-5

これは田中の会社だけに見られるものではなかった。1社からの調達、シングルソースの場合、サプライヤーに供給責任が生じ、優先的に納入せねばならない義務が醸成される。もちろん、これは契約上の供給責任ではなく、その意味での義務でもなく、より属人化した「空気」のことだ。しかし、そもそも取引とは、人間関係を前提とする以上、無視することはできないファクターだった。「マルチソース化が無意味だとは思わない」。田中はいう。「しかし、旧来的な意味で盲信することはできない」。田中は震災から以外な学びを得ることになった。

また、もちろんその逆もある。大阪の笹賀(仮名)は、震災の混乱のなか、営業マンからは「御社に優先して供給します」と心強い発言を受けている。そのサプライヤーは過去から長いつきあいのある、いわばシングルソース先だった。そのいっぽうで、震災後、まっさきに値上げ申請を届けてきたのは、競合活性化のために新規参入してもらったサプライヤーからだった。本来は、サプライソースの複数化がコスト抑制にはたらき、リスクヘッジになると思われていたものの、現実は違う姿を見せていた。長期関係にあるサプライヤーからは、ついに値上げ申請が届くことはなかった。長年のつきあい、というこれまで旧日本的な商関係を示すと思われたフレーズが、震災時には新たなリスクヘッジ策として浮上した。

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