調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 2章(1)-4
ただ、問題は社内にもあった。浜川の社内では、震災による納期遅延の理由を、カスタム材料を使っていることとはしづらい雰囲気があった。なぜなら、そういってしまうと、カスタム材料を使っている現状自体を叱責されるだけだからだ。本来は競合他社との差別化においてカスタム材料を使うことにも一定の価値があったはずだが、震災時にはすっかりその価値は漂白されていた。標準品を使って、危険度を上げ、そしてできることであればマルチソース化を進めること。これが震災以降繰り返された「あるべき論」だった。浜川は、その「あるべき論」ではなく、具体的復旧方法を知りたいと思った。
4月4日月曜日。単一企業から調達する「シングルソース」。それに対比する形で複数社調達を「マルチソース」と呼ぶ。浜川の感じる意味で、「そもそもマルチソース化など絵に書いた餅である」かもしれない。ただし、標準部品や一部の原材料などは、マルチソース化できる余地はある。では、そのマルチソース化の効力はどうだったのだろうか。田中は一つの奇妙なねじれを目撃していた。
田中が、この週明けも同じくサプライヤーに生産状況を確認していた。相手はある消耗薬品を調達していたサプライヤーの営業マンだった。営業マンは、申し訳なさそうに「すみませんが、もう一社から購入してください」といった。田中は、このサプライヤーを含む2社から並行して同一品を調達していた。もちろん、リスクをヘッジするためのものだ。このようなときにこそ効果を発揮するはずのマルチソース化だったが、営業マンから出てきた答えは真逆のものであった。なぜ、と問う田中に、営業マンは「御社はわたしたちだけではなく、他社からも購入しているでしょうから、そこからお願いします」といった。