調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 1章(2)-12
4)なにを、どのように確認するのか
震災直後に情報収集を行なうサプライヤーは、重要度も高いはずです。ということは、バイヤー企業側にも、取引先調査票やバイヤーの出張報告といった形で、サプライヤーの情報が蓄積されているはずです。自社にある相手の情報をあらかじめ理解し、サプライヤーからもたらされる情報と組み合わせることで、より具体性が増す可能性があります。
情報とは入手した後にどのように活用するかがポイントです。震災後の情報収集では、とにかくなんでも良いというだけでは、せっかく入手した情報を活かすことにはつながりません。情報の活用を前提にして、聴取内容をあらかじめ決めておきます。まえもって聴取項目を「ヒアリングシート」として定型化し準備することも有効です。おもな聴取項目は次の通りです。
- 会社名
- 調査記入者氏名
- 災害名(具体的に被害を受けた事象、地震、火災等)
- 対象事業所名
- 電話番号
- 所在地
- 生産品目
- 調査日時
- 調査方法(電話、メール、訪問等)
- 被害状況(被害の原因、社員、建屋、設備、金型、仕掛品、原材料、輸送手段、ライフライン、情報提供者コメント)
- 総合判定(生産に大幅な支障あり、生産に支障あり、生産に支障なし)
入手した情報は他のバイヤーにも展開します。この段階の情報収集では、情報が正しいかどうかわかりません。そして情報を欲しがっているのはサプライヤー側も同じです。サプライヤーだって情報に飢えているのです。震災直後という非常時においても、情報収集のセオリーである「みずから情報を発信する」ことを忘れずに実行する。もちろん、購入品目や、地域の違いによって、どんな情報が有用なのかは異なります。ただし、輸送手段やライフラインに関する情報は、どのサプライヤーにとって役立つ情報となるはずです。サプライヤーから得たこれらの情報は、それが他のサプライヤーにとって有益なものであれば、他のサプライヤーにも公開しましょう。もちろん、情報を公開することについて、サプライヤーの了解を取り付けることは必要です。ただ、災害時は情報を1社にとどめておくよりも共有したほうが良いことは指摘しておきたいと思います。現に、今回の震災では、物流について誰が最初に得た情報に関わらず共有したところ、各社のスムーズなサプライチェーン復旧につながりました。バイヤーは情報収集者でもあり、情報の提供者でもあることを忘れてはなりません。
震災後の情報収集による最初の印象は、「なにかよくわからない」ということでしょう。情報の発信者であるサプライヤーの担当者は混迷の中にいます。入手した情報は断片的であることを前提としましょう。提供される情報が断片的だからわかりづらいのです。
情報展開が必要となるもう一つの目的、それは情報収集をおこなう人間みんなで、集まった情報の再構成をおこなうのです。情報の再構成をおこなって、全体像の掌握と信憑性の向上の足がかりにします。ヒアリングシートの項目を確認していれば、現時点でどういった情報が不足しているかも掌握できるはずです。具体的にこんな情報が欲しいと相手に点伝えることもできますね。情報収集を進めるために、一方的に情報を得るだけでなく情報発信を同時並行的に行ないます。全体像を再構築し、サプライヤーへフィードバックする、この繰り返しが、信憑性の向上を生むのです。