5章-7:仕組み・組織体制
(2)現業部門との連携
私が一介の調達担当者だったときの話です。当時、私は産業機器の電源装置を担当していました。そこで一つの大きなプロジェクトを開催することになったので、取引先を集めて、基本方針を伝えることになりました。
そこには取引先の重役レベルと営業担当者が一同に会しました。そして、こちらは調達担当者である私と、調達課長など数名。そして、技術部門からも数名がいました。そして、まず調達課長から主旨と期待することを述べました。私からはスケジュールなどを説明しました。調達課長からは、「できるだけ標準的な部品を使用して、価格低減に寄与してほしい」といった内容でした。
調達課長は時間の都合で、そこで中座しました。すると、次に仕様説明のために立った技術担当者は、開口一番、こういいました。「さっきの調達課長の発言と、まったく異なるようで申し訳ないんですが……」と。「正直にいえば、この電源装置は標準的ではなく、完全なるカスタム製品です」。技術担当者も、調子が狂ったと思います。
ただ、もっと調子が狂った、というか、恥ずかしかったのが私を含む調達・購買部門のほうでした。そこから、しどろもどろになったのを覚えています。
単に、もうちょっと横の連携を蜜にしていれば、少なくとも表現の調整はできたはずでした。内容を変えなくても、あからさまな矛盾を避けることはできたでしょう。
なぜ話を私の失敗談からはじめたかというと、高尚なレベルではなく、このような、ほんとうに初歩の問題が各企業にあるからです。技術と調達・購買の高度な戦略をすり合わせるといったものではなく、単に、お互いの考えを交換しておきましょう、というものでも、だいぶ違います。
もっとも「事前の調整」とか「あらかじめ根回しをしておく」のが日本的で忌避するひともいるでしょう。しかし、それらは日本の悪習でもなんでもなく、むしろ国家間の外交を含めて、当然のことだと私は思います。
この一件があったため、私と働いたひとはご存知のとおり、頻繁に現場と技術と触れ合うことを意識してきました。正直、情報を渡すだけならばメールが簡単です。しかし、時間があれば、あえて行く。電話がかかってきたら、「それなら行きましょうか」という。たったこれだけのことで、その後の仕事がスムーズに運びます。調達・購買業務は、いわゆるコミュニケーション業でもありますから、そこには面倒くさい行為の重ねしかありません。